脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

暗澹たる気持ちにならざるを得ない現状の的確すぎる指摘 『プア・ジャパン 気がつけば「貧困大国」』読後感

 

 

 

私にとっては、『超整理法』などの仕事術的な著作の印象が強い野口悠紀雄氏の「本分」である経済学の書。理系学部出身の学者らしく、さまざまなデータを見やすい表やグラフにまとめて示し、具体的な数字を出しながら、現状の問題点をグウの音も出ないほどにズバリと指摘している。

 

現在の日本を眺めてみれば、かつて「経済大国」と言われたことがウソのような凋落ぶりが目立つ。通貨である円の価値は下がり、GDPは中国どころかドイツにも抜かれてしまうことが決定的。家電量販店に行ってみれば日本経済の弱体ぶりはよくわかる。サムスン、アップルの2台メーカーの尻尾すら掴めていないスマホを筆頭に、かつては日本製品が君臨していたTV売り場や白物家電などのコーナーは中国のメーカーの製品が幅を利かせている。頼みの綱の半導体も、日本のメーカーだけでは立ち行かず、台湾のメーカーを日本に誘致しなければならない始末。唯一世界市場の中で強さを発揮しているのは自動車だが、電気自動車の開発に関しては遅れが目立っており、環境問題に少なからぬ影響を受けるであろう今後の世界の自動車の潮流の動向によっては一気に凋落する恐れもある。

 

こうした時こそ、政府の介入で一気に閉塞状況を打破すべきなのだが、政府がとったのは金融緩和による円安誘導と既存産業への補助金助成だけ。確かにこの施策により企業の収益は見かけ上、上がりはしたものの、内部留保が増えただけで従業員の給料は物価の上昇率に見合った上がりを見せておらず、実質賃金はむしろ値下がりしており、日本の国民はますます貧しくなるばかり。まさに著者のいう通り「プア・ジャパン」が出来しているのだが、政府は大企業にウケの良い金融緩和策をダラダラと続けるのみで、産業の構造をガラリと変えるような手が一切打てていない。

 

産業構造をガラリと変えるような手とは何か?それは自動車のような重厚長大産業からGAFA-MのようなIT産業への転換を図ることだというのが野口氏の主張。設備投資もさほどかからないし、「情報」の価値は考えようによっては無限大なので、いくらでも価値を生み出すことができるというのが大きな理由だ。

 

一方で野口氏は、こうした分野に携わる人々の中にとびきり優秀な人材はなかなか現れないだろうという推論も述べている。企業も国も短期的な実利を尊ぶあまりに、将来を見据えた研究は二の次三の次になり、こうした研究に携わる研究者はなかなか金銭的に潤うことが難しい。故にそもそも研究者を目指そうとする人々の絶対数が減っている上、仮に研究を続けるにしても、条件の良い海外の企業で続けることを選択する。かくして、日本の企業には革新的な技術が生まれないまま、今まで通りの製造業頼みを続けるしかないという状況が続き、ますます国民は貧困にあえぐこととなっていく、というわけだ。

 

いやはや。数々の具体的数字を示された上で、現状を分析し、未来を予測しているこの一冊の「説得力」は高く、読後、暗澹たる気持ちにならざるを得なかった。まあ、私の一家は私の代で絶えることは目に見えているし、私自身もせいぜい良く生きてあと20年くらいのお話だろうから、本当に深刻な状態に陥った日本の姿を見るようなことはおそらくないとは思う。技術力、そしてその技術を支える質の高い労働力というアドバンテージは、そう遠くない未来に売り物にならなくなりそうな気配だが、「売り物」が無くなってしまった日本には一体どんな社会が出来するのだろうか?そうした未来を見据えて、どのように日本を変えていくべきかについて、政治に携わる人々には迅速かつ慎重な議論を望みたいのだが、政策より政局という風潮は日本の産業構造以上に変革するのは難しい。