SNSをダラダラと眺めていた際に、広告投稿に引っかかって衝動DLして、そのまま溜め読状態になっていた一冊。さほど期待していなかった一冊だったが、思いもよらぬ拾い物だった。
近年の「アイドル」は男女ともに以前は「アイドル」には求められなかった「特殊技能」を売り物に芸能界を渡り歩いて行っている人が多い。見た目が良いことはもちろん、歌、ダンスはできて当たり前。それ以外に、例えば高学歴を背景にしてクイズ番組で高得点を挙げるとか、ワイドショーで、ニュースに対してシビアな意見を述べるとか、あるいは司会として番組を取り仕切って「回し」て見せるとか、玄人裸足の料理だとか、本格的にコントに挑戦してしっかり笑いを取って見せるとか。その昔、デビュー前に陸上部に所属していたことを売りに芸能人運動会で優勝しまくっていた国生さゆりが「鳥無き里の蝙蝠」と揶揄されていた時代とは文字通り隔世の感がある(笑)。
標題の書の「表」の主人公は様々な「付加価値」を求められるアイドル界においてボディ・ビルのコンテストで上位に入賞したことで注目を浴びるようになった男性アイドル大峰颯太。彼のつけた筋肉はドーピングによるものではないかという疑問が、プロ・ボディビルダーから世に示され、炎上しかかったものの、大峰本人が疑惑を否定したことで、一旦は沈静化。しかし、ボディー・ビル界隈の人間を中心に、まだその疑惑は燻り続けているという状態。
そして、その疑惑を追及するように命じられたのが「裏」の主人公、松村健太郎。文芸誌の編集者を目指して出版社に入社したものの、意に染まない雑誌記者に配属されて2年目の若手社員。仕事に身が入らず、簡単な用件すらまともにこなせずに、早くも「戦力外」認定がちらつき始めているダメ社員という設定だ。この状態、業種こそ違え、希望した部署とは程遠い営業第一線にいきなり放り込まれた、30数年前の新卒の私とまるっきり同じだな、と苦笑してしまった。
松村は、大峰がプロデュースし、実際にパーソナルトレーナーを務めることもあるという、トレーニングジムへの潜入取材を命じられる。首尾よく疑惑の究明に成功すれば、希望の部署への異動を叶えるが、同時にもし失敗すれば退職必至の窓際部署へと追いやられるという脅しも半分含まれた業務命令だ。この辺も私の新卒時代と一緒(苦笑)。もし松村が目の前にいたら、よせよせ、そんな命令こそフェイクに決まっていると経験談も踏まえじっくり説得してやりたいところだ。
そして物語にはもう一人、大峰を陰で支える恋人という竹中彩佳という女性も登場する。松村とこの竹中両名がそれぞれの視点から大峰という人物をどう捉えているのかを描くことでストーリーは進んでいく。
そしてストーリーについてはもうこれ以上は紹介できない。何をどう説明しようとしてもネタバレに繋がってしまうからだ。もうこれ以上は本文をお読みください、としか言いようがない。松村の前にも竹中の前にも様々な困難や謎が開いて出てきて、それを両名がどう乗り越えていくのかが一つの読みどころなのだが、その謎やら困難が一々後々の謎解きの伏線となっているので、一つたりとも具体的な例を挙げるわけにはいかないのだ。
最終的にはハッピーエンドに繋がり、全ての謎、そして最大の謎である大峰の問題についても見事な解決が示されるとだけ述べておこう。さらにいうと、ダメ社員松村の逆転劇もある。うーん、これ書いただけでも興を削ぐ恐れがあるな…。
2時間ほどで一気に読んでしまった一作。2時間を夢中で過ごすに足る一作だったと思う。







