脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

「限定された条件下でのアクション」という手法を確立した一作 『スピード』鑑賞記

 

USB-HDD録り溜め腐りかけ作品鑑賞シリーズ。今回はスクワットしながら鑑賞した標記作品を紹介する。キアヌ・リーヴスサンドラ・ブロック出世作と言って良い作品。短髪で目一杯奔走するキアヌと、のちの妖艶さとは正反対の蓮っ葉なねーちゃんを演じていたサンドラはなかなかに新鮮だった。

 

題名にもした通り、条件をかなり厳格に定めた上で、その条件下であるが故に襲いかかってくる難題たちを切り抜けていくドキドキ感を味あわせるという手法を確立した一作。時速50マイル(約80km/h)以下に落ちると爆発するという爆弾を仕掛けられたバスから、いかに人質たちを救出するかという難題をいかにクリアするかに主人公ジャック(キアヌ)が挑み続ける。この作品以降、こうした「限定条件」を様々に変え、その条件によって襲いくる困難をクリアし続けるというストーリー展開の演目は増えたように思う。直近で私が観た作品でいえば『東京MER』だろうか。火災現場、テロ犯人立てこもり現場など、医師としての活動が著しく制限を受ける中での難題クリアをどう果たすかという展開は、単純ながらドキドキした。

 

さて、今作に戻ると、50マイル以上の時速で走り続けることがまず第一の困難。全く車の走っていない一本道を排sっているのならともかく、都市部の混雑した道ではその走行は著しい困難を伴う。しかも本職のバスの運転手は、車内で起きた突発的な銃撃で負傷して運転不可能な状態に。そこでドライバー役を担うのは素人のアニー(サンドラ)。この尻軽っぽいねーちゃんが先行車両をぶっ飛ばすわ、標識の類を壊しまくるわの大暴れ。大量生産、大量消費が最大の美徳だった時代のアメリカ映画もかくやと思われるほどに、いろんなものをぶっ壊しながら暴走を続ける。で、そんな条件下で、いかに爆弾を取り外すか、あるいは人質を救出するのかが描かれる。詳細はぜひ本作をご観覧いただきたい。様々な無理はあるものの、概ね納得できるストーリー展開にはなっている。

 

で結果的には、一台の無人飛行機を巻き込んでバスは大爆発を起こすが、人質は無事救出された。犯人の正体も居場所もわかって、このまま大団円に向かうのか?と思ったが、残り時間はまだまだ長い。案の定というか、もう一波乱ある。ジャックと犯人の直接対決だ。ここでも、一つの街区くらいなら軽く吹っ飛ばす量の爆弾を背負わされたアニーを救出するというミッションがジャックに課せられる。さて、この難題をどうクリアするのか、というドキドキ感は悪くなかった。

 

最後の最後で電車までぶっ壊し、これで船でも沈没させたら主要な乗り物全部制覇だった、壮絶なぶっ壊し映画。興行的に大ヒットしたというのが納得できる一作だった。

 

小説としての完成度が高かった一冊 『密告はうたう 警視庁監察ファイル』読後感

 

TOKIO松岡昌宏主演で、8月末からはシーズン2が始まった↓作品の原作本。暇に任せてKindleのライブラリをのぞいていた時に「あ、こんな本も買ってたんだ」と「再発見」し、一気に読み切ってしまった。

 

 

主人公の佐良は将来を嘱望される腕ききの刑事だったが、捜査情報を上司や同僚に公開せず、独自の判断で突っ走った捜査を行った結果、後輩の斎藤を殺害されてしまうという失態を犯し、出世の本道であった捜査一課から人事部に異動となる。斎藤殺害の犯人は未だに判明していない。

 

人事部で担当しているのが監察、すなわち、身内である警察官の不正を暴き、糾す役目だ。そのため、親しく付き合う同僚もおらず、常に周りから敬遠されるという針のムシロのような日常が描かれる。

 

監察官と言えば、まず私の脳裏に浮かぶのは『相棒』シリーズで神保悟史氏が演じる大河内春樹。初期は出世への野心を隠さない人物だったが、最近は身内の不正を厳しく取り締まることに「専念」しているように見える、厳しい人物像だ。標題の書は大河内氏のような管理職ではなく、実際に監査に携わる課員の姿が描かれる。普段は尾行することが職務で、それゆえ尾行に関する詳しい知識を持ち、意識も高い警官をどのように監視するのかなどのディテールが事細かに描かれている。

 

操作中に殺害された斎藤は、同僚の皆口菜子と結婚間近だった。また皆口と斎藤と佐良の3人は独断捜査を行なっていた仲間でもあり、佐良は皆口に対して「済まない」という気持ちを持ちつつも、その気持ちがあるゆえに返って疎遠になっていたという設定がなされている。

 

ある日、現在は府中の運転免許センター勤務の皆口が個人情報を漏洩しているという密告が人事一課に届き、佐良は皆口の行動確認、すなわち身辺調査を開始する。その過程で、こちらもいまだに犯人が判明しない目白駅暴行殺人事件が絡んできたり、事件の関係者が殺されたりというエピソードが投入され、近づきかけた核心が何度も何度も遠のくという試練が繰り返された後に、最後の最後で全ての事件が解決するという展開になっている。身も蓋もない紹介の仕方になってしまったが、何か一つでもエピソードを紹介してしまうと、エンディングの味わいを著しく損なうことになるのでこれ以上のストーリー紹介ができないのだ。この辺は著者伊兼源太郎氏独特の巧妙さだ。

 

伊兼氏の巧みさに感心したことがもう一つある。文章終わりの記述の冴だ。その部分の「主人公」となっている人物の心情を、主人公自身の体の状態や、周りの風景に託して見事に描き、なんとも言えない余韻を生んでいるのだ。こういう文章、なかなか書けるものではないし、パクろうと思っても簡単にはいかない。事柄の切り取り方が的外れだと意味をなさないし、過剰に描写しすぎると、別の意味を持たせてしまい、スムーズな理解の妨げになる。伊兼氏の筆運びは実に適切に主人公の心情を代弁していた。

 

ドラマについては、横目でみていた程度で詳しく鑑賞していないので、この場では、原作の持つ独特の「暗さ」はそれなりに表現できていた、とだけ述べておくことにする。主演の松岡氏をみているとどうしても『家政夫のミタゾノ』のカオルが思い浮かんできてしまい、暗さが半減してしまってはいたが。普段はひょうきんキャラを演じることの多い池田鉄洋氏が佐良の上司の須賀としてコミカルさを完全に封印したキャラに徹しているのも印象に残った。

 

「日本のヤクザ映画」の文法に忠実な一作 『極道の妻たち 情炎』鑑賞記

 

 

録り溜め腐りかけ映画鑑賞シリーズ。このシリーズをまともに観るのは実は初めてだ。

 

ちょっと調べてみたらこの作品は、高島礼子姐さん主演作としては第5作目だそうだ。「極妻」シリーズといえば岩下志麻姐さん主演作ばかりが頭にあって、他の姐さん作品が5作(以上)もあったとは知らなかった。このことがまず驚き。

 

さて、ストーリーはといえば、「昭和残侠伝」そのもの。主人公が、敵役たちの横暴に耐えるだけ耐え、最後の最後に怒りを爆発させて敵役の本拠に殴り込んでバッタバッタと斬り倒し、血まみれになりながら首尾よく本懐を遂げて、そのままエンドロールが流れるという展開だ。「昭和残侠伝」では、殴り込みには高倉健の相棒として池部良が寄り添うが、高島礼子演じる主人公西郷波美子の相棒となるのは韓国人女性の白英玉(杉本彩)だ。

 

このテの結末がわかりきっている作品ではストーリーの彩が大切。すなわち、敵役たちをいかに憎々しく描くかが作品のキモとなる。作品の舞台は神戸の暴力団菅原組。現組長の菅原たつお(大木実)は大病を患って余命幾ばくもない状態。で、跡目を誰にするかについて菅原組の幹部たちは若頭であり、菅原組長の娘婿でもある河本一兆(保坂尚輝)を推すのだが、それに異を唱えたのが波美子。波美子は菅原組傘下の西郷組の組長。夫龍二麻薬中毒者に殺されたことで組長に就任したのだが、龍二の死の裏には実は大阪の巨大組織坂下組の暗躍があったことが後々明らかになる。

 

河本は商才に長けてはいるものの、出自が韓国であることもあって、菅原組長は跡目に指名しなかった。組長が跡目に指名したのは隆二の弟であり西郷組の若頭である恭平(山田純大)。というわけで波美子と河本、そして菅原組の幹部たちには思いっきりの対立が生じる。

 

そんな中乗り込んでくるのが白英玉。彼女は河本の韓国時代の妻で、子まで成していたが河本の罪をかぶる形で服役していた。服役中に日本にわたった河本を追いかけてきたが、しれっと別の女と結婚していた河本には当然恨みがある。

 

河本の側には坂下組がつき、恭平を亡き者にすべく暗躍が始まる。さまざまな「攻撃」があった後に、ついには河本子飼いの殺し屋集団が恭平一行を襲い、恭平には重傷を負わせ、恭平の妻となったばかりの堅気の看護師かおり(前田愛)が死亡する。かおりの死顔を見た波美子姐さんが完全にぶっちぎれて、ちょうど同じ時期に息を引き取った菅原組長の通夜の席、すなわち敵役たちが雁首を揃える場に殴り込みをかける。

 

題名にもした通り、実に以って「日本のヤクザ映画」の文法に忠実な作りだ。敵役の無法ぶりもそれなりに考えてあって、観衆の「納得感」が高まったところで、最後の殺戮カタルシスに向かう展開は手堅い。ただ、それまでのストーリー展開で「ケンカの強さ」を示すシーンが皆無であったにも関わらず、いきなり日本刀を握って、筋金入りのヤクザを縦横無尽に切り倒す波美子の姿には少々違和感があった。あんなに簡単に的確に人を斬り殺しまくるなんてマネ、できるわけがない。いくら長年女組長としてヤクザ組織を率いてきていたとしても。どこかで剣道の一つもやっていてなかなかの腕前だったとか、抗争でケンカの腕が磨かれて行ったとかの説明がないと、唐突に強くなってしまったという違和感は拭えない。

 

まあ、これもヤクザ映画のお約束として飲み込むべき設定なのだろう。敵役の憎々しさはそれなりに仕上がっていただけにやや残念ではあったが。

 

支離鬱々日記Vol.202(休職日記39 お題と徒然)

今週のお題「お米買えた?」

 

ここのところ家トレに励んでいる。家トレでやっているのは二種類だけ。スクワットと腹筋ワンダーコアを用いた腹筋だけだ。巣篭もり生活が主となって以来、歩く距離が激減したせいで、脚の筋肉が衰え、特にモモ裏が常に鈍痛に苛まれる状態だったのだが、ジムでみっちりとウォーキングをこなし、家トレでスクワットに取り組んだ結果、その痛みが随分と軽くなった。あともう少しで「臨戦体制」にまで持っていけそうだ。私の生命線は両脚のパワーなので、この部位の復活なしにはラグビー実戦復活はありえない。今年中は難しいかもしれないが、赤パンでの本格復帰を目指して、再度本格的にチャレンジしようと思う。

 

納車3ヶ月にして、新車を擦ってしまった。左後部。ものすごく狭い道で、大型のSUVとすれ違う際に、何度か切り返しを行ったのだが、その際に左側のフェンスで擦ってしまったらしい。大した傷ではないように思えたのだが、ディーラーに持って行ったら、後部バンパーを替えなきゃいけないと言われ、20万超の見積もりをもらってしまった。私の今年の文筆業収入が全て吹っ飛ぶほどの凄まじい金額。数日間、ガックリしていた。

 

先週末まで2週間、義姉のベトナムのご両親が日本に滞在していた。盆休みの1週間は連日義兄の運転で、海、山、テーマパークにショッピングモール巡り、後半の1週間は姪っ子ちゃんと散々遊んだらしい。当家は二人ともコロナだった関係上、帰国の前日になってようやく夕食会で会うこととなった。会うに先立って、地元の銘菓ガトーフェスタハラダのラスクの詰め合わせやら、シャインマスカットやら梨やら、父親の好きなウイスキーやらを贈っておいた。後半の1週間のうち何日かは、当家が接待してあげてもよかったのだが、何しろお互い言葉が全く通じない。せいぜい義実家の近所のショッピングモールに連れて行ってあげるくらいが関の山。その罪滅ぼしだ。来春には義姉は第二子出産予定だが、その際母親は来日して義姉や姪っ子ちゃんの世話を焼くことになったらしい。またその際はお土産をいっぱい持たせようと思う。

 

最後にお題。先週の半ばに買い置きの米が切れたので、コープに買いに行ったら見事に米の棚がすっからかん。「令和の米騒動」なんて言葉が、マスコミやネットに躍っていたのは知っていたが、実情を目の当たりにしてちょっと焦った。その足で別の地元大手スーパーへ。ここには、潤沢とは言えないまでも、やや棚の品数が少ないかな、くらいの量の米はあった。なんだよ、そんなに心配することはねーじゃん、と思いながらエンドに平積みされていた、いつもより少々上等な米を買って帰宅。で、その晩早速その米を炊いて食ったら、高いだけあってなかなか美味かった。じゃあ、もう一袋同じ米を買おうかと、翌日そのスーパーに行ったら目的の米はおろか、他の米まで、文字通り店頭在庫は半減していた。慌てて、別の銘柄の米を5kg買い求めて帰ってきた。合計10kg。米が潤沢に流通し出すという9月の後半までは十分にもつ在庫量だ。なお、当家にはいざとなったら「切り札」がある。近所に住む親戚に泣きつけば、米はほぼ無尽蔵にゆずってもらえるのだ。もちろん有償ではあるが。元々、この親戚からは母が毎年その年に食うだけの米と、当家や知り合いに融通する米を買い上げていたのだが、母の老人ホーム入りで、この取引はほぼ消滅。ただ、ちょいと頼めば、当家が1年間食うくらいの米はすぐに用意してもらえる。いざという時、こういう親戚が近くにいるのは心強い。終戦後の闇米流通みたいだな、と思いつつも。

 

 

 

個人的には一番身近な外国となったベトナムについて改めて学んでみた 『日本人の知らないベトナムの真実』読後感

 

何度か書いている通り、私の義姉はベトナム人だ。当家の最高権力者様、世間的にいうところの女房の兄に5年ほど前に嫁いできた。義兄が働いている工場に、彼女が技能実習生として入ってきたことが馴れ初めだとのこと。今では娘が一人生まれ、当家にとっては姪っ子に当たるこの女の子は現在の当家にとって最高の癒しをもたらす存在だ。なお、来年には第二子が誕生する予定で、姪っ子ちゃんには早くも赤ん坊返りの兆候が見られる。昔は混血児といえばいじめの標的になりやすいという印象があったが、幸にして義兄一家が住む自治体は外国人の受け入れに積極的で、国際カップルも多く、混血児も多いので、混血児だからということでいじめに遭うことはなさそうな雰囲気ではある。

 

長い前置きとなったが、以上のような状況により、今やベトナムは私にとっては一番身近な外国となった。何しろ、いきなり親族にベトナムの方が出現したし、血のつながりはないとはいえ、彼の国に親戚が多数存在することとなったからだ。

 

とはいえ、今までの生涯において全く関係のなかった国ゆえ、正直なところベトナムと言われても全くイメージがわかなかった。せいぜい頭に浮かぶのは生春巻きを筆頭とした食い物関係と、最もポピュラーな交通手段がスーパーカブで、今や日本のマニアたちがビンテージスーパーカブを探しにベトナムへ行くことすらあるという非常に瑣末的な情報だけだった。

 

しかし、この国の歴史は実に複雑だ。欧州各国が世界進出を競っていた頃にはフランスの統治下にあったし、ベトナム戦争では超大国にして世界の警察を名乗っていたアメリカを打ち破り、国土から追い出した。そして何よりこの国に多大な影響を及ぼしてきたのは地続きの超大国、中国の存在だ。中国は自国の国力が高い時は力づくで支配しようとしてきたし、勢力が分散している時はさまざまな勢力が親交を結ぼうとしてきた。ベトナムの方からも、主権争いで劣勢に立たされた勢力がその時点での中国の最大勢力と誼を通じて状況を逆転しようと画策するなどしたため、結果として中国の介入を招くようなこともあったようだ。今でも、ベトナム人の名前は中国風で、漢字で書き表すことも可能だ。現在の政治体制も共産主義で、共産主義体制確立以降に中国が辿ってきた「歴史」を見事になぞるような動きを見せているそうだ。

 

著者によれば、現在のベトナムは、豊かになりきれないうちに、衰退の兆しである少子高齢化社会になりそうなのだそうだ。義姉の実家は外食産業を営んでおり、彼の国においては富裕層と言える家柄だそうなので、将来的に姪っ子ちゃんはベトナムで生きていくことを選択することもありだと思っていたが、そんな国情では困る(笑)。姪っ子ちゃんそして、来年誕生予定の第二子が自立した社会人として生きていかねばならない2050年あたりのベトナムがどのような状態になっているのかについては日本の状況以上に気になる。

 

著者自身が述べているように、この本には「噂話」レベルの情報も多く、若干信憑性に欠けるうらみはあるものの、そういうことも含めて混沌とした社会なのだということが感じ取れる一冊だったように思う。

 

歴史の波に翻弄され続けて磨かれた魅力的な街たちのガイドブック 『フランス 26の街の物語』読後感

 

 

 

個人的には、いつの間にか始まり、いつの間にか終わっていたという印象だけが残ったパリオリンピック。もっともこれは私の個人的な事情による。すなわちオリンピックがちょうど佳境を迎える頃に合わせたようにコロナに罹患してしまい、体調不良が続いたので競技をほとんど観ることができなかったのだ。本当なら、いくつかのスポーツについて記事を書く予定でもあったのだが、正直、それどころではなかった。結果的には金メダル獲得数は米中に次いで多い20個獲得したし、合計で45個ものメダルを獲得したので、日本選手団としては大いに誇って良いと思うのだが、一番思い入れのあるラグビーは惨憺たる結果に終わってしまったし、卓球の開催時には熱出して寝込んでた。その他のスポーツに関しては、勉強しようとしている間に、とっとと別の人に書かれてしまった。

 

悔しいので、今更ながらではあるが、フランスについてちょっと勉強しようと思って衝動DLしたのが標題の書。大学時代の第二外国語はフランス語だったし、パリに2泊ほどしたことはあるし、少しワインについても齧ったことがあるので、全く馴染みのない国ではないのだが、それでも知識の量は圧倒的に不足しているので、少しでもフランスという国に関する知識を得ようというのがこの一冊を読む目的だった。

 

ところが、この本、思いの外と言っては失礼だが、面白い一冊だった。紹介されている街たちが地政学的にどんな場所に位置しているのか、から始まり、そこに位置しているが故に、イングランドスコットランド、ドイツといったライバル国たちとの争いの中でどのように支配されて、最終的にフランスの領土となったのか、宗教はどんな影響を及ぼしたのか、自然環境が変化したことによって、街の重要性にどのような変化が生じたのかが分かりやすく紹介されていた。街が現在の姿に至るまでにどんな歴史を辿ってきたのか、そしてその歴史が住んでいる人々にどのような影響を与えて、現代に至る「お国柄」を形成したのかが簡潔にして当を射た文章で書き記されているのだ。

 

フランスの中心は、政治的にも文化的にも首都パリであることは間違いないのだが、どこの街にもパリに勝るとも劣らぬ歴史があり、また、街によってはパリよりも隆盛を誇っていた時代があったということに改めて気付かされ、驚かされた。例えばアヴィニョンという街は、一時期カソリック教皇がおり、信仰の中心地であったという歴史を持つ。当然その時代には世界中から富や物資や文化や知識が集中する、世界の中心地だったわけだ。

また、マルセイユに停泊した船舶から乗組員によってばら撒かれたペスト菌がヨーロッパ中で猛威を振るい、屍の山を築かせたという史実も興味深かった。ちょうど、横浜沖に停泊した豪華客船によってもたらされたコロナウイルスのいくつ目かの亜種に冒された私にとっては余計に。

 

もしもう一度訪仏の機会があり、パリ以外の街にもいくようなことになれば、ぜひとも再読したい一冊だった。

 

 

手慣れた感じの刑事モノ小説 『トランパー 横浜みなとみらい署暴対係』読後感

 

ジムのチャリンコマシーンの上で、あまり考え込まずに済むだろうという見込みのもとに読んだ一冊。著者今野敏氏の作品は数多くの刑事ドラマの原作となっており、おそらくは劇画を読むのと同じくらいの負担で読み進められると踏んで選んだ一冊だ。

 

事前の目論見通り、非常に情景が想像しやすい文章だった。

 

物語の主人公は横浜みなとみらい署暴対係の係長諸橋と、係長補佐の城島。彼らの日常の任務は所属係の名前の通り、暴力団の取り締まり。ある日暴対係に、管轄内の暴力団取り込み詐欺を行っているという情報が入る。で諸橋以下の署員たちが捜査に向かうのだが、詐欺事件ということで、神奈川県警本部の知能犯担当の捜査二課の課員たちも捜査に乗り込んでくる。この辺には、度々刑事ドラマのモチーフになっている所轄と本部の対立という構図がわかりやすく取り入れられている。やや紋切り型の表現ではあるが、捜査本部の人間は所轄を下に見ているため、態度が横柄。諸橋係長の階位が警部であることを知ると、途端に態度が変わるところも、お約束。手慣れた感じ、とタイトルに表したのは、数々の刑事ドラマで散々みせてもらった対立構造がストーリーの進行の中で、不自然さなくきちんと説明されているところ。

 

さて、情報を元に暴力団が借りている倉庫を張り込み、騙し取った高級食材がそこに運び込まれるところまでしっかり確認した、合同捜査チームは、令状をとって、勢い込んで倉庫に踏み込んだものの、倉庫はもぬけのから。これは警察内部に情報を漏洩させている人物がいる、という結論に達し、漏洩させた刑事も分かったのだが、その刑事は本牧埠頭に死体となって浮かんだ。

 

ここでまた、組織同士の対立構造の中に殺人事件を扱う捜査一課が入り込んでくる。さらには捜査を進めていく中で、殺された刑事が中国人の犯罪者、それも中国の公安部が追いかけるような大物を追っていたことが判明し、今度は公安の外事課が介入してくる。やれやれ。組織の硬直化と、それに輪をかけた、組織の構成員たちの縄張り意識。これじゃ捕まる者も捕まらんわ、と思わせる話の持っていき方が実に巧み。少しも説明臭さを感じさせずにストーリーを追いかけていけば、かなり複雑な対立構造が自然と分かってしまう。ドラマの原作に数多く採用されるのも納得なわかりやすさだ。

 

一応最後までいろんな謎が解けないままストーリーが進むので、未読者の興味を削がずにおくためには、これ以上のあらすじ紹介は控えたい。ちょっと時間があるときにスラスラと読めてしまう一冊なので、是非ともご一読いただきたい。文中に出てくるあんかけチャーハンが実に美味そうで、もしモデルになっている店があるのなら是非その店に行って味わってみたいとも思った。