私がうつを「発症」してから20年以上の時が過ぎている。直接の原因は、望まない転勤を強いられ、さらに転勤先では最も望まなかった業務を担当させられてしまったことだ。会社としては、「主力」の業務ではあったが、そこで頑張ったところで私の望む未来には結びつかないということは明白だったし、毎日の仕事がとにかく辛くて仕方なかった。そして当時は製薬会社の大々的なキャンペーン効果もあってか、うつ病患者と宣告されることのハードルが著しく下がった時期でもあった。そういう風潮を利用したと言われても仕方ないが、とにかくその時の業務から逃れないと、本当に自分が壊れてしまうと感じたのでうつ病の認定を受けたことは間違っていなかったと思う。
その後、職場も業務内容も何度か変わったが、うつはしつこく私の中に居座り、3度の休職を経験した。そして現在は4度目の、最も重症で期間も長いうつ病による休職期間中だ。年齢的なことやこれまでの職務経験を考え併せると、復帰しても希望の職種に就く可能性は皆無だし、今の気に染まない仕事から逃れられる可能性も限りなく0に近い。ゆえに、積極的に職場に戻ろうという気持ちには到底なれない。しかし、今一番意欲的に取り組める文筆仕事だけでは自活できるほどの収入は得られない。題名にも書いた通り自分では回復の道が今の会社を辞めて文筆仕事に専念することだ、とわかってはいるのだが、経済的な状況がそれを許さない。なんとか、会社に復帰することを目標に自分のココロに少し我慢することを強いるのか?それとも経済的な苦境は覚悟の上で辞職の道を選ぶのか?選択肢はシンプルなのだが、軽々には決断を下せない状況にあり、そこで思い悩むこともうつを長引かせる一因となっている。
さて、標題の書は精神医学に詳しいライターの佐藤光展氏による精神医療現場のルポルタージュ。「3分診療」、「薬漬け」などと揶揄され問題点が指摘されている精神医療を改革すべく、独自の考え方と方法で患者に向き合っている医師16名の姿を紹介しながら、書名の通り「心の病気はどう治す」かを追究した一冊だ。
私の現在の主治医は「現状に折り合いをつけるのではなく、自分の目指す方向に注力していきましょう」との治療方針を最初に明確に示してくれ、問診、投薬の他、カウンセリングなども提案してくれた。治療の効果はそれなりにあり、一時はかなり回復もしたのだが、現在は膠着状態が続いていて、少し不満を感じている状態だ。まあ、この医師のおかげで自分の進んでいく方向が明確にはなったので感謝はしているが。今更主治医を変えようとは思わないが、どの方も一度診察を受けてみたいと感じられる方ばかり。特に、患者一人一人からしっかりと話を聴くために患者の数を制限しているというクリニックについては今からでも是非話を聴いてもらいたいと思った。
心の病は外からは病状が分かりにくいがゆえに、本来はしっかり時間をかけて患者に向き合うことが必要なのだが、診察料金の制度の問題で、数をこなさないと、クリニックの経営が成り立たない状況なのだそうだ。今後も精神を患う方々は増えこそすれ減ることはないと思うので、是非とも実情にあった制度に改変してもらい、短い診察と薬漬けの治療から脱却する必要がある。国の根幹をなすのは人であり、大勢の人々が悩む疾病に関して、最適な治療法を採用し、その浸透を手助けするのは国の役割であると思う。