プロ野球界における「暴露系」の草分けとして名高い江本孟紀氏による、中日ドラゴンズ低迷の原因の解説本。面白おかしい暴露記事的な内幕モノではなく、至極真っ当に失敗の原因を解説しており、一々ご説ごもっともなお話が綴られており「納得感」の高かった一冊。
現役時代の立浪氏は確かにスターだった。PL学園からドラフト1位指名されて入団した中日一筋21年のプロ生活で積み上げた安打は史上8位の2480本、二塁打は史上最多の487本を記録。守備にも優れ、ゴールデングラブ賞も5回受賞。え、5回「しか」獲得してないの?と拍子抜けしてしまうほどの名手だった。なお遊撃、二塁、三塁と三つのポジションで同賞を獲得したのは立浪氏だけだそうだ。
この数々の輝かしい成績から、立浪氏は西沢道夫氏、高木守道氏という、中日球団のみならず、日本プロ野球界全体のレジェンドお二方に続く「3代目ミスタードラゴンズ」の称号を得た。
そんな立浪氏を中日球団が指揮官として迎えたのが2022年シーズン。2012年〜21年シーズンの10シーズンでBクラス8回という長期低迷状態を打破するための切り札としての監督起用だった。しかし、周囲の期待とは裏腹に在籍3シーズン全てで最下位に終わり、低迷打破どころかさらにチームを底なし沼に引き摺り込むような事態に追い込んでしまい、今オフに辞任。井上一樹氏に後任を託すことになってしまった。
成績が伴わなければ、ボロクソ言われるのがこの世界。最初は応援していたファンから毎試合毎試合「立浪辞めろ!」と大合唱を浴びる始末。また「令和の米騒動」を始めとし、選手との関係がギクシャクしていたエピソードにも事欠かない。現役時代の輝かしい実績に思いっきり泥を塗っての退任だった。
一体なぜ、こんな悲惨な状況が出来したのだろうか?その原因については是非とも本文をお読みいただきたい。江本氏の分析と指摘は的確そのもの。この状態じゃ負けが込むはずだというのが素直に納得できてしまう。
中でも一番大きな原因は「指導経験の欠如」であろう。現役引退後は評論家としての活動が主で、指導歴としては侍ジャパンの打撃コーチくらい。短期間の、しかも各チームの有力選手揃いの日本代表チームのコーチ程度の経験では「指導」とは呼べないかもしれない。中日でも他球団でもいいから、誰か監督の下について、シーズンを通じての戦い方、指導の仕方を学ぶ機会を得るべきだった。その監督が名勝であるなら勝つ手法をそのまま学べば良いし、凡将なら反面教師にすれば良い。指導者としてどうチームを勝利に導くかについてのノウハウが絶対的に不足していたのが致命的だった。江本氏はコーチ陣の選定についても、フロント陣のチーム強化に関しての方針についても問題点を指摘しており、3年連続の最下位の責任を問われるべきは立浪氏一人だけではないともしているが、なるほど納得だ。故野村克也氏のいうところの「負けに不思議の負けなし」という状態がここ3年のドラゴンズだった訳だ。
すっかり地に落ちてしまった立浪氏だが、今度こそ、どこかの監督の下について、「監督学」をしっかり学んだ上で是非とももう一度監督にチャレンジしていただきたい。選手時代に熱烈な声援を送ってくれていたファンたちから、罵声を浴びせられたままでいるのはさぞ悔しいことだろうと勝手に推測する。是非ともリベンジして欲しい。復活ロードにはかなり読み応えのある物語が誕生しそうだからだ。