脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

男と女は勘違いだらけ 『拷問依存症』読後感

 

櫛木理宇氏による『依存症シリーズ』の四作目。この作の読了で、ようやく私はこのシリーズの「現在地」に追いついたことになる。どの作品も描かれる事象はおぞましくはあったが、そのおぞましさ故に惹かれてしまうという矛盾した心が自分にあることを気づかせてもらった。

今作は、一人の映像クリエイター我孫子が人を一人轢き殺してしまうところから始まる。映像クリエイターといえば聞こえはいいが、要するにエロ動画作成を生業にしている人物で、卑しい人格の持ち主の男という設定。我孫子は轢き殺してしまった人物を近くの工事現場に放り込みそのまま逃げてしまうという、付与されたキャラに恥じない罪を犯すのだが、その代償を払わせようとする人物が現れる。我孫子は訳がわからないまま正体不明の人物の命令に従うしかないのだが、このシリーズの読者ならそれが誰かはすぐにお分かりだろう。

 

場面は変わって、このシリーズの「定番」である、惨殺死体が発見されて騒然となる警察署が描かれる。今回の惨殺体は男で、指が切断され、歯が抜かれ、肛門が大きく陥没させられていた。しかも死因は凍死。つまり犯人は被害者がまだ生きているうちにさまざまな拷問を加え、苦しむ被害者を放置して死に至らしめたということになる。肛門が陥没していることを考えると、被害者の男はおそらく女性に対して手酷い性加害を加えたのだろうと推測される。女性が受けた痛みを、男に疑似的にではあるが味わわせられるのは肛門への加撃だろうからだ。

 

そして、もう一人、同じように拷問を加えられた男性の遺体が発見される。この二人の関係は?そして我孫子が轢き逃げの代償として作らされた映像とは?

 

犯人は最初からわかっているのだが、二人の男性が殺害されるに至った理由の謎解きがこの物語の最大の眼目となる。で、その謎に迫るために櫛木氏はさまざまな趣向を凝らして文章を書き進めているので、是非ともその技巧を味わいながら本文をお読みいただきたい。最後に全ての謎が一つの結論に集約していく様はミステリーを読む楽しみというものをあらためて感じさせてくれるであろう。

 

この作品のもう一つの重要なモチーフは、性行為をめぐる男女間の感じ方の差、というか、男の側が女性に対して抱いている過大かつ誤った幻想についてだ。たとえば、AVには痴漢モノという根強い人気を持つジャンルがあるが、そこ作品内で描かれるのは、嫌だと痴漢たちの指に抗いながらも、最後には「感じてしまう」女たちだ。しかしこれは男の妄想を都合よく映像化したものに過ぎず、実際には被害者女性には心身ともに大きな傷が残るだけだ。その大きな勘違いを拡大解釈した男たちに鉄槌を下す「必殺仕事人」が浜真千代なのだ。

 

今作では、第一作から登場している刑事高比良が浜グループに「負け」て警察を去ることになり、浦杉架乃は浜グループの「癒し」部門の活動を担う姿が描かれる。そしてこのシリーズは、この設定を引っ張ったまま、まだまだ続きそうだ。次回作を楽しみに待ちたいと思う。