脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

もし今の日本に「江戸」があったら? 『金春屋ゴメス』読後感

 

 

近所の大学の図書館の書棚で見かけ、「タイトル借り」した一冊。この図書館は、蔵書数は少ないが、たまにぶっ飛んだコレクションを並べているので油断できない。

 

タイトルに引っ張られ、先入観も予備知識も全くないままに表紙をめくると、そこには発売時に掛かっていたであろう腰巻きが貼り付けてあった。曰く「日本ファンタジーノベル大賞受賞作」。権威に弱い私はさぞかし面白いんだろうという先入観を思いっきり持ってしまった。

 

で、実際に細かいところまで設定が行き届いた、肩の凝らない実に面白い作品だった。

 

舞台となるのは江戸。ただし「江戸時代」の江戸ではない。現代の日本の北関東あたりにあると設定された小国家だ。ここを独立国と認めているのは日本だけで、本家の江戸さながらに鎖国政策を採っており、国交があるのも日本だけ。現代科学の産物を持ち込むことは厳しく制限されており、合板でできたマスコットですら持ち込み禁止。江戸国民は一度日本に出国したら戻ることはできないし、日本から江戸に入ることも厳しく制限されていて、なんと300倍もの倍率の抽選を潜り抜けないと入国許可が出ない。しかも日本から江戸に入国する際は衣服すらも和服に改めないと即刻国外退去となるという徹底ぶり。

 

江戸では700万人が電気も水道もない生活を送っている。夜はか細い灯火の光のみ、風呂は薪を使って沸かす。交通手段は徒歩か、せいぜい馬程度。現代人がこんな環境に放り込まれたら、ものの三日も経たないうちに逃げ帰ってしまうだろう。しかし、大多数が農業に従事しているため、海外からの輸入に頼らなくても食糧は全て自給できており、それゆえ事実上の鎖国状態でも国として成り立っているという設定にもなっている。この辺は現代文明と、いざ食糧調達の道を断たれたらたちまち日干しになってしまう日本の現状をチクリと皮肉っているようだ。

 

さて、主人公は辰次郎。大学生で両親は江戸出身。自身も5歳の頃まで江戸で過ごしていたが、ある事情で江戸を離れ、日本で暮らしている。先にも述べた通り、一度江戸から出て日本人になった者は江戸に再入国できない決まりとなっているのだが、特例として再入国が認められた。その特例を認めた人物こそがタイトルの人物「金春屋ゴメス」なのだ。

 

ゴメスはとてつもない女傑、というよりは一種の怪物として描かれている。江戸に二人いる長崎奉行の一人で、出入国の管理に目を光らせる他、江戸の治安維持にも一役買っている。辰次郎はこのゴメスの下で、自身が江戸を出国しなければいけなかった謎の解明に走り回る、というのが粗々のストーリー紹介。これ以上の紹介は即ネタバレに繋がってしまうので控えざるを得ない。是非とも本文をお読みいただき、辰次郎の謎と現代人が江戸時代に放り込まれたと仮定した際の混乱ぶりを味わっていただきたい。

 

ストーリーとは別に、江戸時代の江戸というものについては、是非とも一度触れてみたい気がした。中高と剣道部だった私としては、一度「本物」の武士たちと手合わせしてもみたいし、本当の「晴耕雨読」生活も送ってみたい。一日いただけでねを上げる可能性大ではあるが(笑)。