USB-HDD録り溜め腐りかけ映画鑑賞シリーズ。「特別捜査官」などという仰々しい題名とハリソン・フォード主演ということから派手なクライムアクションを予想して観始めたのだが、予想とは全くかけ離れたヒューマンな内容だった。
ICEとはアメリカの移民税関捜査局のこと。ハリソン演じる主人公マックスはICEの特別捜査官として、不法移民を取り締まる職務に就いている。他の捜査官と違い、冷徹な取り締まりを行わず、たとえば体調不良な者がいれば、その者を医者に診せることを上司に掛け合ったり、逮捕された女に子供がいると聞けば、その子供を劣悪な環境から救い出して、メキシコにいる祖父母に送り届けたりする。しかしながら、彼の手厚いケアなど焼け石に水。人種の坩堝と言われるアメリカには日々大量の移民が押し寄せ、多くの場合、「正式」な移民とは認められないままアメリカでの生活を始める。
特に悪いことをしているわけでもないのに、日々捕吏の影に怯えながら暮らさざるを得ない不法移民たちのストレスに満ちた日々。ろくな職にもありつけず、低賃金でキツい仕事に従事して食うや食わずの生活を続けながら、なんとか市民権を獲得しようと耐え忍ぶ移民たちの姿。若干美化して描かれている面はあるが、故国で食い詰めてアメリカに流れてきた移民たちの姿はなかなかに真に迫っている。
アメリカの暗部とも言える「差別」についての描写も生々しい。イスラム系移民の娘タズリマは、高校で9.11テロを絶対的な悪と見るのではなく、主張を表現するための一つの手段と見るべきだという考えを述べたところ、クラスメートたちから激烈な言葉で非難される羽目に陥る。のみならず、危険思想の持ち主としてFBIからマークされ、アメリカで生まれたため、生まれながらにしてアメリカの市民権を持つ弟、妹を含め、家族全員国外退去すべきというプレッシャーを受けることになる。外敵からの国土への直接的な攻撃をほとんど受けたことのないアメリカにとっては9.11の事件というのは途轍もないショックをもたらし、その時のトラウマをいまだに引きずっているというのが端的に感じられた描写だった。
とまあ、こんな感じで、お話はシリアスに進んでいき、派手なドンパチは一切なし。いささか期待はずれではあったものの、この作品で提示された問題は重く、深い。アメリカの現実と、将来的に多くの移民を受け入れざるを得なくなるであろう日本の未来像について大いに考えさせられてしまった。ここ最近SNSでは不法行為を行う移民たちをバッシングする投稿が激増しているような印象があるが、移民の受け入れには確かにこうした負の側面もありうる。しかし、たとえばウクライナのように直接戦火に晒されている国からの移民(難民)までシャットアウトして良いのか?という問題は実に重い。簡単には答えの出ない問題を改めて考えさせられた一作だった。