脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

小説としての完成度が高かった一冊 『密告はうたう 警視庁監察ファイル』読後感

 

TOKIO松岡昌宏主演で、8月末からはシーズン2が始まった↓作品の原作本。暇に任せてKindleのライブラリをのぞいていた時に「あ、こんな本も買ってたんだ」と「再発見」し、一気に読み切ってしまった。

 

 

主人公の佐良は将来を嘱望される腕ききの刑事だったが、捜査情報を上司や同僚に公開せず、独自の判断で突っ走った捜査を行った結果、後輩の斎藤を殺害されてしまうという失態を犯し、出世の本道であった捜査一課から人事部に異動となる。斎藤殺害の犯人は未だに判明していない。

 

人事部で担当しているのが監察、すなわち、身内である警察官の不正を暴き、糾す役目だ。そのため、親しく付き合う同僚もおらず、常に周りから敬遠されるという針のムシロのような日常が描かれる。

 

監察官と言えば、まず私の脳裏に浮かぶのは『相棒』シリーズで神保悟史氏が演じる大河内春樹。初期は出世への野心を隠さない人物だったが、最近は身内の不正を厳しく取り締まることに「専念」しているように見える、厳しい人物像だ。標題の書は大河内氏のような管理職ではなく、実際に監査に携わる課員の姿が描かれる。普段は尾行することが職務で、それゆえ尾行に関する詳しい知識を持ち、意識も高い警官をどのように監視するのかなどのディテールが事細かに描かれている。

 

操作中に殺害された斎藤は、同僚の皆口菜子と結婚間近だった。また皆口と斎藤と佐良の3人は独断捜査を行なっていた仲間でもあり、佐良は皆口に対して「済まない」という気持ちを持ちつつも、その気持ちがあるゆえに返って疎遠になっていたという設定がなされている。

 

ある日、現在は府中の運転免許センター勤務の皆口が個人情報を漏洩しているという密告が人事一課に届き、佐良は皆口の行動確認、すなわち身辺調査を開始する。その過程で、こちらもいまだに犯人が判明しない目白駅暴行殺人事件が絡んできたり、事件の関係者が殺されたりというエピソードが投入され、近づきかけた核心が何度も何度も遠のくという試練が繰り返された後に、最後の最後で全ての事件が解決するという展開になっている。身も蓋もない紹介の仕方になってしまったが、何か一つでもエピソードを紹介してしまうと、エンディングの味わいを著しく損なうことになるのでこれ以上のストーリー紹介ができないのだ。この辺は著者伊兼源太郎氏独特の巧妙さだ。

 

伊兼氏の巧みさに感心したことがもう一つある。文章終わりの記述の冴だ。その部分の「主人公」となっている人物の心情を、主人公自身の体の状態や、周りの風景に託して見事に描き、なんとも言えない余韻を生んでいるのだ。こういう文章、なかなか書けるものではないし、パクろうと思っても簡単にはいかない。事柄の切り取り方が的外れだと意味をなさないし、過剰に描写しすぎると、別の意味を持たせてしまい、スムーズな理解の妨げになる。伊兼氏の筆運びは実に適切に主人公の心情を代弁していた。

 

ドラマについては、横目でみていた程度で詳しく鑑賞していないので、この場では、原作の持つ独特の「暗さ」はそれなりに表現できていた、とだけ述べておくことにする。主演の松岡氏をみているとどうしても『家政夫のミタゾノ』のカオルが思い浮かんできてしまい、暗さが半減してしまってはいたが。普段はひょうきんキャラを演じることの多い池田鉄洋氏が佐良の上司の須賀としてコミカルさを完全に封印したキャラに徹しているのも印象に残った。