脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

人生に無駄な経験はないということを教えてくれる一作 『吼えろ鉄拳』鑑賞記

 

USB-HDD録り溜め腐りかけ映画鑑賞シリーズ。今回は真田広之をアクションスターとして世に広く知らしめた標題の作を鑑賞。

 

この作品が公開された1980年代初頭は、映画といえば2本立て上映が一般的だった。で、この作品の同時上映は松田聖子主演の『野菊の墓』。ティーンの男女を映画館に引っ張ってこようという意図がミエミエのマーケティング戦略。で、引っ張ってきたお子ちゃまたちに何を見せるのか?ヒーローのカッコ良さとヒロインの可憐さだ。というわけでこの作品は全編、アクション俳優としての真田広之氏の魅力を惜しみなく見せつけている。まあ、要するに真田広之のプロモーションビデオだと思えば良い。実際に真田広之の肉体が躍層する姿は小気味よい。JAC創始者にして、日本アクション映画界の重鎮千葉真一氏もそれなりに重要な役で出て、キレの良いアクションを見せているし、志穂美’ビジンダー’悦子氏も主役級のアクションで盛り上げている。

 

ストーリーは財閥の創業家の次男坊で、幼い頃に誘拐されていた響譲次が、日本に戻ってきて財閥の乗っ取りを画策して様々な悪事を働いた叔父を倒すという勧善懲悪モノ。いかにも、ってストーリーだが、ストーリー云々の前に何しろつくりがチープすぎる。アクションシーン以外はアラばかりが目立ってしまい、途中で、いかにツッコミどころを探せるかの方に興味の焦点が移ってしまった。覚えているツッコミ入れちゃったシーンを登場順に紹介していこうと思う。

 

・冒頭、香港の路地を逃げ回る真田氏。最後は袋小路に追い詰められ、悪人たちの一斉射撃で蜂の巣になってしまう。身体中から血を吹き出して死んでいくのはいいんだけど、身体中に装備された血のりの噴射装置の電線が丸見え。いくらお約束の設定だとはいえ、カメラワークとか編集とかでなんとかしろよ!!このシーンで一気に作品のクオリティーへの興味が失せた。なお、このシーンで殺されたのは主人公響譲次そっくりの兄日野原透(真田二役)。

 

・主人公響譲次(真田)は、物心つかない時分に誘拐され、その誘拐犯にアメリカで育てられたことになっている。育ての親である誘拐犯は何故か譲次に武道を叩き込んでいる。なんでアメリカに渡って、なんで武道を叩き込んだのかに関しての合理的な説明がない。またアメリカのシーンのはずなのに、背景にいかにも日本的な松が生えていた。ロケする金がないってのはわかるけど。最低限のリアリティーは確保しろよな!!

 

・日本に来た譲次が活動拠点にしたのがスナック「カサブランカ」。ここのマスターはコメディーリリーフの南利明。譲次が店にあるスパゲッティーを全て食べてしまうシーンがあり「もう売り切れだよ」というセリフを吐くのだがそこで南氏の最大のギャグ「ハヤシもあるでよ」というセリフを挟んで欲しかった。これは単なる私の願望。

 

・日野原家代々の墓がある京都に墓参りに行った際に、謎の修行僧集団に襲われる条りがあり、その集団からの逃走が描かれる。公開当時世界的な人気を誇っていたジャッキー・チェンの作品を意識して、端々にコミカルなシーンが挟み込まれるのだが、そのシーンが全然笑えない。当時のティーンたちには抱腹絶倒だったのかもしれないのだが、今観ると本当にクスリとも笑えない。最後に川に逃げた譲次を追いかけて修行僧集団全員が川に頭から飛び込むのだが、川が浅すぎて、全員が頭から泥に突っ込んでしまうというシーンでその条りは終わるのだが、戦闘の訓練を受けているはずの修行僧集団がそんな間抜けな目測誤り犯すわけねーじゃん。それにいくら川底の泥が柔らかいといったって、頭から突っ込んだら脳震盪くらい起こすし、下手すりゃ首の骨が折れるわ!!

 

・叔父一党に捕えられた姉千尋(志穂美)を譲次が救出するシーンがあるのだが、救出後、何故か切り立った崖を海の方に向かって逃げていく。普通は人通りが多い方に逃げていって助けを求めるんじゃねーの?崖の方に逃げてったらあとは海に落ちるしかねーじゃん。と思っていたら、案の定最後は海に落ちた。だから、最低限のリアリティーは確保してくれよ、本当に!!

 

・叔父一党は香港の麻薬商人から大量の麻薬を買い付けて日本に密輸入しようと企む。そこに現れるのが前半部で謎のマジシャン「ミスターマジック」として登場していた、大御所千葉真一氏。ミスターマジックの正体は国際麻薬捜査官の太刀川。先述の通り千葉氏のアクションはキレッキレでカッコいいのだが、千葉氏がセリフを言うたびに関根勤氏のモノマネを思い出してしまい、笑いをこらえることができなかった。まあ、これは作品の罪ではなく、関根氏に感化された私の側の問題だ。

 

・叔父一党は取引成立後、香港の麻薬商人の別荘がある小島に滞在しているのだが、譲次はそこに乗り込んでいく。次々と悪人たちを倒すアクションシーンはこの作品のクライマックス。で数々の難敵を倒した譲次は叔父を追い詰めるのだが、叔父はジープに乗って逃走。譲次は馬に乗って追いかける。その譲次を追いかけてくるのはヘリコプター。おいおい、ジープで逃げるよりヘリで逃げた方が速いし、追いかけられる心配だってねーじゃねーかよ。ねーねー、叔父さんってバカなの?ヘリが登場したシーンを観た私は、幼稚園児がキラキラした目で素朴ながら答えにくい質問をしてくる時のような顔をしていたに違いない。

 

・香港のほんの小さな島のはずなのに、荒涼とした広大な荒野が広がっているのも不自然。下手すりゃ香港そのものよりでかいくらいのイメージになっちゃった。それに別荘作るくらい気に入った島なら、もっとちゃんと整備しとくんじゃねーの?島全体剥き出しの泥地とゴツゴツした岩場しかない。無人島だっつーの、これじゃ。で、譲次が馬で駆け抜ける道の脇には明らかに不自然な盛り上がり部分があって、予想通りにそこが爆発する。だから、最低限のリアリティーは確保しろよ!!何度も言わすな、この!!

 

・叔父を追い詰めたのはまたしても崖。この崖、千尋と譲次が飛び降りた崖と同じ場所じゃねーのか?しかも植生が明らかに日本だぞ。予算がないのはわかったから、なんとか工夫しろよ、おいおい!!

 

ツッコミを文字に直すと思いの外字数が増えてしまう。まあ、こんなしょーもないツッコミしかできない作品だったものの、興行的には成功し、それに伴って真田広之氏はブレイクを果たすことになる。そして今や『SHOGUN』で日本を代表する俳優として世界に名を轟かす存在にまで上り詰めた。人生に無駄な経験はないのだということを実感させてもらった。思わぬ教訓をいただいた一作ではあった。