脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

何もかもが正反対な異色コンビのバディもの 『逸脱捜査 キャリア警部・道定聡』読後感

 

正反対のキャラを持つ二人の刑事が難事件を解決していく、いわゆるバディモノ。キャリア警部が「逸脱」した操作をするとなると、どうしても杉下右京氏の顔が浮かんできてしまうのだが、私がこの連作小説を読んで感じたのは同じテレ朝のドラマでも『ドクターX』の方。

主人公とされ題名に名前までクレジットされている道定聡(みちさださとしと読む)よりも、その相棒の山口ヒカルという女性刑事の方が断然目立っている。遠慮会釈のない物言いといい、自分がやりたくないことは絶対にやらないというキャラ設定といい、山口ヒカルの言動を読むたびに、大門未知子の顔が浮かんできて仕方がなかった。

 

で、本来の主人公道定聡の方はというと、東大卒のキャリア警官で順調に出世していく予定だったのに、赴任先の群馬県警で部下が横領事件を起こし、その責任を取らされる形で、警視庁の捜査一課に配属となったという設定。官僚機構としての警察のマネジメントを期待されて入庁したため、捜査についてはど素人という設定。しかもこういう「頭だけはいい」という設定の人物の常として、異性関係には極端に不慣れ。名前の字面、道定から山口ヒカルに「童貞警部」と揶揄されているが、どうやら本物の童貞という設定らしい。なぜそのように判断したかは、是非とも本文をお読みいただきたい。物語にとって、それなりの隠し味になっているので、あえてこの場では紹介しない。で、山口ヒカルを勝手に大門未知子に想定した以上、道定警部の方も誰かを想定しなければなるまいと思いつつ読み始めたのだが、頭が良さそうで「女性関係に奥手」という設定の俳優がなかなか思い浮かばなかった。ドラマ等々でそういう役を演じる俳優だと皆イケ面すぎるのだ。で、いわゆる個性派の方から探そうとすると、失礼ながら「東大卒」という頭の良さをまとわりつかすことができない人ばかり。なんとか候補を濱田岳氏と浅利陽介氏にまで絞り込み、最終的にドラマ『相棒』での、嫌味たっぷりなキャラ青木年男のイメージが強すぎる浅利氏を外して、濱田岳氏を想像しながら読み進んだ。

 

長々とキャラ設定の説明に費やしてしまったが、そうでもしないと、この本の紹介がまとまった長さの文章にならないのだ。全く性格の違う主人公二人が、お互いに反目しながらも、ホンのわずかな手がかりや綻びから難事件を解決してしまう、という説明で終わってしまう。どんなところにどう着目して、ということを説明し始めたら、それこそ全文書き取りでもしないと収まりがつかなくなってしまう。

 

道定警部と山口刑事の噛み合わないキャラ同士の掛け合いを基調としながら、最後にきちんと謎解きにまでお話を転がしていく著者五十嵐貴久氏の巧みさに感心した、という以外に感想の書きようがない。読書ブログをかれこれ15年ほども続けている身としては、なかなかに恥ずべきお話だが、とにかく読んでいて面白いというのは事実なのだから、読んでみてほしいとしか言いようがない。

 

深刻に考え込むこともなく、おどおどろしさもなく、気軽に読めて気持ちをリフレッシュできた一冊だった。それなりに有名な店の「看板メニュー」でない一品が実に美味であったことを発見した時のような喜びを感じさせてくれたと思う。