脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

正統派中の正統派勧善懲悪物語 『次郎長三国志』鑑賞

 

晦日の夕刻、なんとなく観始めて、結局最後まで観てしまった一作。

 

原作は村上元三の同名小説だが、この物語自体は、虚実入り乱れた清水次郎長の生涯をまとめ上げた、二代目広沢虎造浪曲だとのこと。日本人への、歌舞伎の「白浪五人男」に勝るとも劣らぬ次郎長とその子分衆(大政・小政に森の石松、桶屋の鬼吉等々)の知名度は、各々の人物にスポットライトを当てて描き出した村上氏の小説によってもたらされたモノらしい。

 

本作でも、大政(岸部一徳)、追分政五郎のちに小政(演じたのは北村一輝。なお、追分政五郎と小政は元々別の人物だが、本作では時間の都合上無理やり同一人物だという設定にしたとのこと)、法印大五郎(笹野高史)、森の石松温水洋一)など芸達者な面々がそれぞれの人物のキャラを引き立てている。主人公次郎長役の中井貴一は一所懸命に迫力を出そうとしてはいたが、顔やら雰囲気が優等生っぽすぎてヤクザの親分という雰囲気にはそぐわない感がありありではあったが。あと、この面々では残念ながら次郎長一家は、どうひっくり返しても「喧嘩に強い」という雰囲気が出てこない(笑)。温水氏演じる石松なんざ、すぐに斬られて死んじゃいそうだ。腰も据わってないし、恐々刀を振ってるなぁ、という感じが最後まで抜けなかった。

 

キャストに関してはもう一言。監督マキノ雅彦氏の縁戚者が総登場してて笑った。娘の真由子は、死んでいく大野の鶴吉(木下ほうか)の女房おきんを好演していた(と私は感じたのだが、一緒に観ていた当家の最高権力者様は「セリフが棒読み」と厳しくダメ出ししてた…)。

 

さて、物語はタイトルにした通り典型的な勧善懲悪ストーリー。しかも、敵役三馬政(竹内力。一所懸命に憎まれ役を演じていたのには好感が持てるが、役を作りすぎて異常なほどクドかった。彼もVシネマで自ら作り上げてしまったキャラからの脱却には苦労しているようだ)の卑怯なやり口を耐えに耐えてきた主人公たちが最後の最後に怒りを爆発させて、多数の敵に真正面からの戦いを挑んで堂々と勝つというおまけ付き。1950年代と60年代に製作されたマキノ雅弘監督作品であれば拍手喝采だったのだろうと推測されるが、本作の制作年2008年の御代においては、年寄り連中が勝手に郷愁掻き立ててるだけじゃねーの、という感想しか持ちようがない。良くも悪くも、悪役にも色んな理由があるんだ、ってことを一旦描いてからじゃないと、平成以降の観衆は納得しないよ。時に『半沢直樹』みたいな単純なストーリーが受ける事もあるけどね…。

 

例えば、独特の間や表情があるとか、見事に伏線を回収しての逆転劇があるとか、何か一味加わってないと、あまりにシンプルすぎるストーリーでは、粗探しをするしかなくなるってものだ。

 

最後の最後、三馬政の屋敷への討ち入り前に、その屋敷の前に聳え立つ崖の上に、次郎長一家全員が一列に並んで集うところなんざ、戦隊ヒーローモノの戦闘開始前みたいだった。そのまま全員が崖から飛んで、空中で回転した後に着地するとか必殺のキック繰り出すとかするんじゃねーかと期待してしまった。実際は崖下の藪の中駆け下るんだけど、戦いの前に全力疾走なんかしたらいざ敵の屋敷に入った途端に息が上がっちまって戦いどころじゃなくなるっつーの、全く。まあ、そういう静と動の対比とかなんとかいうよりは、公明正大なヤクザ同士の喧嘩を描こうってのが主旨なんだろうし、素直にそれを喜んじゃうべき作品なんだろうけど…。