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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

シャーロック・ホームズって兄がいるって設定だったんだ 『シャーロック・ホームズの冒険』鑑賞記

 

同名の作品としては、グラナダテレビ制作の連続ドラマの方が有名。第6シリーズまで40作以上が制作・放映された。

 

今回紹介するのはビリー・ワイルダー監督で、1970年に公開された一作。アマゾンの商品検索では、TVドラマ版のDVDコレクションしか引っかかってこなかったので、便宜上、そちらを貼り付けておく。

 

冒頭は、シャーロックが退屈な日常を過ごしていることが描かれる。依頼は「行方不明のサーカス団員の捜索」みたいな、「シャーロックでなければ解決できない(=シャーロックにとっては興味深い)」問題とは程遠いものばかり。退屈さに耐えきれず、コカイン摂取の悪癖が重篤化していきそうな気配。相棒であり、医師でもあるワトソン君は結構いい味を出してるコメディー・リリーフだった。

 

そんな、日常生活に倦んでいるシャーロックの元に、ある夜、正体不明の美女が運ばれて来てストーリーが大きく回り出す。彼女の身元がベルギー人技師エミール・バラドン氏の夫人ガブリエルであることを自身の推理で割り出した、シャーロックはガブリエルからの依頼で行方不明のバラドン氏を探すことに。

ところがこの捜索には思わぬところから横槍が入る。その横槍を入れるのが、なんだかよくわけのわからん政府の外郭団体みたいな所に属しているシャーロックの兄マイクロフトなのだ。いくつかの作品を読んだことはあるものの、別に熱烈なシャーロッキアンではない私は、シャーロックにソフトメーカー最大手みたいな名前の兄がいるということにびっくりした。この設定がこの作品で最も衝撃を受けたおハナシ。

 

マイクロフトからの横槍を受けたシャーロックは却って、失踪事件の解決に関する闘志をメラメラと燃え上がらせ、さまざまな証拠や事実から、謎がネス湖にあると睨む。ネス湖といえば、まず最初に思い浮かぶのが「ネッシー」。でネッシーもちゃんと登場する。その正体に関しては実に合理的な説明がなされ、「あ、なるほどね」とは思わせてくれる。謎解きの本筋にも関係はしてくるが、いつものシャーロックの明晰な推理によってもたらされた正体及び、謎解きではない。身も蓋もない言い方をすれば、ネス湖畔のとある史跡で待ち受けていたマイクロフトが全てネタバラシをしてしまうのだ。

 

このマイクロフトという人物、ちょっとググって調べてみたら、頭脳はシャーロックをも凌ぐほど明晰であるが、行動力がないため探偵稼業には向かないというキャラ設定のようだ。下級役人でありながら、実は政府が秘密にしているいろんなことを知っていて、問題があれば裏で操作を行うような人物でもあるらしい。今作でも、事件の全ての背景を知っている上に、女王陛下と親しく口をきくような間柄であるという描写がなされている。

 

で、このマイクロフトによって、シャーロックは英国にとって実にマズい出来事の片棒を担がされていたということが明らかになってしまう。そこは、やっぱりいろんな事象を考え合わせていくうちにシャーロック自らが気づくべきでしょ、と思ってしまうのが、特にファンというわけでもない私の率直な感想。コナン・ドイルの描き出すシャーロック・ホームズの世界観の中では、こういう「シャーロックも人の子」的な作品も必要なのだろう。

 

ストーリーとしては、凝りに凝ったという感想は持ち得なかったが、何しろシャーロックに兄がいた、ということには驚かされた一作だった。