2023年アメリカで公開された、C級ディザスタームービー。C級という定義は作品の出来という意味ではなく、あくまで制作費の問題ということにさせていただく。
ストーリーは至極単純。地磁気の激変と北極の氷山の崩壊で、アメリカ全土が水没の危機に見舞われる。その危機を感知した学者が軍の協力を得て、水没回避のために奮闘努力するというものだ。次々と危機が襲い、その危機をギリギリのところで乗り越えて、なんとか最終目的に辿り着こうというストーリー展開は、この手のオハナシの定番ではあるが、うまくドキドキ感を煽る演出がしてあって、悪くない仕上がりになっていた。建国以来、9.11のテロ事件までは侵略らしい侵略を受けたことのないアメリカという国が、「沈没」などという、文字通り国家が消失しかねないような危機に陥ったら、さぞかし大騒ぎするんだろうな、という想像も掻き立てられた。少々頭のネジがハズレかけている次の大統領氏がこんな問題に直面したら、他の国がどうなろうが知ったこっちゃねーわとばかりに、とんでもない施策を講じるかもしれないとも思い、少々背筋が寒くなりもした。まあ、そんな感情をも喚起させるドキドキ感については是非とも本作をご覧いただき味わっていただきたい。
そんな思いとは全く別にひしひしと感じたのがある種の切迫感。具体的には、制作予算の壁だ。冒頭でこの作品をC級と格付けしてしまったのは、いかにも制作費をケチったという場面が随所に見られたからだ。で、この制作費の「節約」はストーリーのリアリティーを大きく損なってしまっていた。
まず危機対策チームの人員が全く足りない。学者二人と軍の将軍それに5−6名のスタッフだけで、危機に対処しようとしているのだ。究極の突発事項、かつ極秘裏に対策を進めなければならないからこそ、最少の人数でコトにあたっているのだという解釈も成り立たなくもないが、であるなら、それこそ最高の機能を持つスパコンを使うなどの「代替手段」を考えるべきだっただろう。もっとも、それなりの数の役者を使うよりはスパコンらしく見える機器を用意する方がコストが嵩んだかもしれないが。
人数不足は危機対策チームだけではない。危機対策チームの中心人物ヒーバート博士の妻と娘はカリフォルニアの沿岸地域に住んでおり、その逃避行もサイドストーリーとして語られるのだが、その逃避行に登場する人物が極端に少ない、というより人が全く登場しない。大っぴらには公表されていない大洪水の噂を聞きつけた人物たちにより道路が大混雑しているという描写は一応あったが、これはおそらく合成。みんながみんな渋滞中に冷静でいられるはずがなく、暴走するようなバカが必ずいるはずなのだが、そんなシーンは一切なし。しかも次のシーンでは、この母娘はいきなり無人の荒野の未舗装の道をたった一台だけで走っていることになってしまった。こういう抜け道的な道にこそむしろ車が集まってそうなものだが?しかも、ガソリン切れになったら、都合よく放置車両が見つかるし、その放置車両からガソリン抜いている最中に津波が襲ってくるというご都合主義もあった。その次、いよいよガソリンが尽きたら、もう一台エンジンの故障で放置された車が出現。で母親は車に関する詳しい知識を持っていたという無理矢理な設定がいきなり現れて、この車を瞬く間に修理してしまい、再び襲ってきた津波を首尾よく逃れてしまう。その間にも人っこ一人現れない。なんぼなんでもこいつは不自然じゃないかい?
こんなシーンが続いてしまったため、ストーリーよりは、製作陣の涙ぐましい努力の方に気が向いてしまった。映画の結末に向かうドキドキ感よりは、予算の残高を考えるスタッフの切迫感の方がよほど胸に迫ってくる。もしかしてそちらの方を意図した作品だったのかな(笑)?