外見は可憐な少女であるものの、実は30過ぎの成人で、凶悪な意思を持ち、殺人その他の悪事を全く厭わないサイコパス女を主人公にしたサスペンスホラー映画。
ちょいとググって調べてみたら、この作品は「ファースト・キル」と謳っているものの、「エスター」シリーズとしては二作目だそうだ。一作目の『エスター』では当時実年齢12歳のイザベル・ファーマンが30過ぎという設定のサイコ女を見事に演じ切って、高い評価を得たそうだ。
2022年に公開された標題の作は、前作の前日譚に当たる。主演は前作同様にイザベラ・ファーマンが務めたのだが、この時点で彼女の実年齢は25歳。流石に加齢による「少女っぽさ」の低下は否めなかったが、演技力の高さと、彼女の実際の身長162cmを微塵も感じさせないカメラワークで、不自然さを感じさせなかったことには素直に敬意を表したい。特に、可憐な少女がちょっと表情を変えるだけで極悪なサイコ女に見えてしまうイザベラの演じ分けには感心させられた。
ストーリーは、エストニアの治療院に収容されているリーナ(イザベラ)を描くことから始まる。外見は可憐な少女なのだが、実は凶悪犯である彼女は、芸術療養士の女性を利用して治療院を脱走。その脱走の過程で、彼女の残虐さが端的に表現される。
脱走に成功したリーナは身元不明人のリストから、自らの顔立ちによく似た少女、エスターを選び出し、エスターになりすますことを計画する。で、首尾よくエスターの家族、オルブライト家に受け入れられたのだが、母親トリシアと、エスターの兄に当たるガナーはエスターの正体に関して明らかな不信感を持っていることが描かれる。しかし、この不信感は父親アレンのエスターへの盲目的な愛情によって無理矢理押し込められ、エスターはオルブライト家の一員としての生活を始めることになる。この、母親と兄が示していた不信感は後々のストーリーに関して重大な伏線となるので要注意。
本来的には偽物なので、日常生活の端々に矛盾が生じ、身元がバレそうになる危機が生じる。それを持ち前の機転とずる賢さで切り抜けていくところにドキドキ感が生じるが、この感覚が実に心地よい。しかし、ウソを暴く決定的な証拠が発見されてしまった。そこでエスターのウソの代わりに明らかになった衝撃の事実!これがこの作品の一番のキモなので詳細はあえてぼかしておく。興味のある方は是非とも本編を実際にご覧ください。最後の最後は一作目の『エスター』に矛盾なく繋がる結末に導かれるが、そこに至るまでのストーリーも見どころ満載なのでお見逃しなく。
主演のイザベラ・ファーマンはこの二作の印象が強かったようで、その後も結構サイコパス役やら悪役やらを演じている。30代から老け役を演じていた故菅井きん女史みたいなもんか。一つの役のインパクトが強すぎることが彼女にとっていいことなのか悪いことなのかは、もう少し時間が経たないと判断がつかない。
そもそもの第一作である『エスター』もぜひ観てみたいと思ったし、その他の悪役作品も観てみたいと思った。