USB-HDD録り溜め腐りかけ映画鑑賞シリーズは、日本が誇るダークヒーロー座頭市シリーズ中の一作。全23作あるシリーズの9作目に当たるそうだ。
あらすじはいつもの通り。とある宿場を訪れた座頭市が、その宿場に救う悪人どもをバッタバッタと斬り倒してメデタシメデタシとなるというもの。このパターンは全作品に共通するので、悪人たちをいかに憎々しく描くか、その悪人に泣かされている人々をいかに哀れに描くかが勝負の分かれ目となる。そしてその大筋に、いかに脇役を絡め、「脇エピソード」を挿入して彩りを添えるかが味わいの深さにつながる。
この作品に関していえば、概ね大筋のストーリーはうまくハマっていたと言えるだろう。悪の親玉は妙義山の麓の宿場の顔役、島村の甚兵衛(上田吉二郎。数々の芸人たちにモノマネされていたので名前は知っていたが、「実物」は初めて観た。モノマネそっくりの喋り方してた 笑)。甚兵衛は郡代官と結託して、農民から重い税を搾り取り、かつ宿場を訪れる大道芸人たちからも法外なショバ代を取ることを宣告する。ショバ代のバカ高さを嘆く芸人たちの心情を三河万才師に扮した中田ダイマル・ラケット師匠が見事に演じており、いくつかのギャグで笑わされてしまった。
さて、我らが市っつあんは旅の途中で、妙義の宿で女中をしているお仙という女に渡してほしいと、ゆきずりの男から手紙を預かる。男はお仙の兄新助で、甚兵衛一味の中での重役就任を代償に、代官たちの非道を訴えるために江戸に向かった庄屋を殺したのだが、いざ殺してみたら、重役どころか、殺しの罪を丸々ひっ被される羽目に陥って逃げ回っている状態。
妙義の宿に着いた市はお咲という娘と相部屋になるが、お咲は殺された庄屋の娘で、父の姿を探し求めての旅の途中だった。というわけで、新助、お仙、お咲がいかに泣かされるかが描かれ、敵役たちの憎々しさが強調されるストーリーが続いていく。
そんな中で後々のメインストーリーにも少なからぬ影響を与える「脇ストーリー」も語られる。脇ストーリーの主役は儀十という飲んだくれの老人。生き別れた息子を探しているという儀十の身の上話を聞いた市は、自分が親と生き別れた状況にそっくりであることに思い至り、もしかしたら儀十が自分の父ではないかという思いを抱くのだが…。結果がどうだったのか、および儀十がメインストーリーの中でどんな働きを見せるのかに着いては本作をご覧いただきたい。
このシリーズにはつきものの、市が純粋に剣技を競うこととなる剣豪は平幹二朗が演じた。甚兵衛一家の用心棒で貧乏武家の三男坊という設定。斬り合いの中で、「斬った」時に流れる擬音が何度か鳴っても倒れないので、もしかして斬られたのは市なのかと思わされてしまった。それだけ殺陣が真に迫っていたということだ。
まあ、最後の最後はお約束のチャンチャンバラバラで終わるのだが、勝新太郎氏はこの作品の制作時は三十をちょっと過ぎたあたりで、殺陣のシーンには迫力があった。まだいろんなことに体を蝕まれてなかったようで、体のキレが素晴らしく、居合い抜きの達人らしさを存分に発揮していた。この駄文の標題に「アブラの乗り切った」と書いた所以の一つである。