Yahooがよくやっている、書籍抜粋企画をチョイ読みして衝動DLして一気に読んでしまった一冊。ロックミュージシャンたちのぶっ飛んだ行状を蒐集してある。
章立ては「性」、「薬」、「酒」、「貧乏」の4つ。最後の貧乏だけちょっと位相が違う気もするが、貧乏を原因とした不道徳な行為の数々があったということで、一つのカテゴリーとしたようだ。いずれか一つを「極めた」人物もいれば、いくつもの章に登場する「合併症患者」もいる。
この本の「主人公」と言えるのがミック・ジャガー。言わずと知れたローリングストーンズのボーカルだ。薬、酒に溺れる姿もあったし、ローリングストーンズ発足当時はバンドメンバー全員が貧困のどん底にあり、食うためにちょいちょい悪事を働いていたようだ。しかしなんと言ってもすごいのが「性」に関する数々の逸話。自分の彼女だけでは飽き足らず、バンドメンバーやらミュージシャン仲間の女に手を出すことがしょっちゅうあったそうだ。それこそ手当たり次第、見境なし。いい女だと思えば、すぐに恋愛感情を持ち、メイクラブに及ぶ。恋愛が成就すれば刹那的な快楽が得られるし、実らなければ、その苦しさを吐露することが優れた作品につながる。実に羨ましい。何しろ本人は欲望のおもむくままに行動すればいいだけなのだから。手間暇もお金もかかるが、返ってくるものがとにかくでかい。で、本人はそういう行動にヤリガイを感じている。これ以上の幸せはない(笑)。
ミックのすごいところは、女だけでなく、男も恋愛の対象になるということ。デビッド・ボウイとはボウイの女房をめぐって恋の鞘当てを演じることになるのだが、その一方で、ミックとボウイも関係してしまうのだ。「普通の三角関係」は一人の異性をめぐって二人の同性同士が争うものだが、この三角関係は3人それぞれが通じ合ってしまっているという非常に不可解なものになってしまっている。いやはや。不倫とかなんとかいう言葉や概念では理解しきれない行動は、まさに常識はずれ。そうでなきゃ、ロックの歌詞やメロディーなんか浮かんでこないんだろう。
もう一人、性、ドラッグ、アル中の三冠王を達成しているのがエリック・クラプトン。彼はジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドを恋するあまり『いとしのレイラ』という曲まで作って、ついにはパティを自分のものにするが、自分自身も寝取られたこと多数。それでも寝とった相手のライブに参加してギターを奏でたりもしている。人がいいというのか、肝が据わっているというのか。この数々の恋の迷走が、彼のギタープレイや、曲作りに大いに良い味わいを与えているようだ。ドラッグ、酒に溺れて、矯正施設入りしたことも幾度となくある。周りの人々のサポートに恵まれたエリックは現在でも世界最高のギタリストの一人として多くのファンを魅了している。
本の腰巻には「不倫で自粛なんかするわけないだろ!」という煽り文句が躍っているが、現代の日本では、1件でも何か不祥事を起こせば、本人が自粛しなくても勝手にメディアが干してくれる。
マイナスイメージをまとうことを嫌うスポンサーが広告の契約を打ち切るのはまだ理解できるが、消費者の反発を買うことを恐れるあまり、メディアまでもが、アーティストたちのスキャンダルにはかなり神経質になっている。まあ、一般人が気楽に情報発信できる昨今では、何が地雷かわからないという恐怖があるのは理解できないでもないが、それにしても、店頭からCDが一斉に撤去されたり、過去の出演作品が配信されなくなるなどの措置まで取られるのはいかがなものか、とも思ってしまう。罪は罪、作品は作品という姿勢を見せるメディアなり、小売店なりがいてもいいような気がする。私は少なくとも作った本人の行状がどうであれ、いいと思った作品の鑑賞をやめようとは思わない。「芸能」の、特に表現に関わる人たちは常識の尺度では測れない存在であるからこそ、優れた作品を残すことができるのだという考え方には一理あると思うし、一般人には優れた作品を味わう権利があると思う。なんでもかんでもすぐに自粛みたいな風潮には少々違和感を感じる。