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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

襲いくる「困難ポルノ」に耐え切ることができるか? 劇場版『TOKYO MER〜走る救急救命室〜』鑑賞記

 

 

話題作の多いTBS日曜9時枠のドラマとして制作・放映され最高視聴率19.5%を獲得した作品の劇場版。事件や事故の現場で救命にあたる、医療チームの活躍を描く。

 

チームの中心は医師喜多見(鈴木亮平)。テロに遭い、重傷を負った両親が自分の目の前で息を引き取ったという経験から「待っているだけじゃ、救えない命がある」という信念を心に刻み、燃え盛る火災の中であろうが、銃を持った犯人が立てこもる建物の中であろうが飛び込んでいって負傷者の救命にあたる人物。ドラマはこの喜多見の無鉄砲とも言える行動に引っ張り回されながらも、その信念に次第に心動かされていくチームのメンバーたちの人間模様を中心に進んでいった。表面上は対立しながらも、最後の最後では喜多見を度々救うことになる、医系技官・音羽賀来賢人)との緊張関係を継続しながらの人間関係をアクセントとし、毎回毎回、ギリギリの救命現場が描かれるこのドラマ、なかなか見応えはあった。

 

で、劇場版。「敵役」の横浜MERのチーフにして音羽の元カノ鴨居友に杏を迎え、いつにも増して東京MERの活動を阻害する要因を増やした作りになっている。以前紹介した『「おもしろい」映画と「つまらない」映画の見分け方』の公式によれば、おもしろい映画とは、

①作品の序盤で小さな試練を乗り越える

②作品の終盤で、絶対に乗り越えることのできない試練に直面し、そしてそれをなんとか乗り切る

この二点の要件を満たしているのだという。思いっきりざっくりとしたまとめでございますけどね。

 

①に関しては、先にも述べた通り横浜MERという救急救命医療チームとの対立が該当する。横浜MERの信条は「危険を冒しては、救えない命がある」というもので、喜多見の信条とは正反対。そして、東京MERの後援者である東京都知事・赤塚(石田ゆり子)と横浜MERの後ろ盾である厚生労働大臣・両国(徳重聡)は政敵同士という見事なまでの対立関係。で、横浜みなとみらいのランドマークタワーで発生した大規模火災の現場で、いつも通りに現場に突入しようとする東京MERを批判した横浜MERはあくまで救出された怪我人たちの救護にあたることを主張し、東京MERへの消防その他の支援までも拒否する。ご丁寧に両国大臣までもが現場に現れて、東京MERの活動を非難するという徹底ぶり。余談だが徳重聡って、なんだかこういうケチな悪役が似合うようになっちゃったな。「第二の石原裕次郎」になるはずだったのにね…。

 

さて、東京MERは、唯一の味方は東京消防局のレスキュー隊という極めて不利な状況の中、ランドマークタワー内への突入を敢行。紹介が前後してしまったが、このランドマーク内の観光客の中には喜多見の妻であり臨月である循環器医師・千晶(仲里依紗)も含まれていた。千晶とは5年前に一度離婚し、なんとか再婚を果たしたものの、喜多見の仕事偏重の生活のせいですれ違いが生じ、別居したという設定になっている。この時点で、アメリカ映画のド定番「ストーリー上の試練克服に伴って破綻しかけた恋愛関係の修復がなされる」という展開になるんだろうな、と予想されてやや興醒めした。何でもかんでもそういう要素を取り込めばいいってもんじゃねーっつーの。とはいえ、この臨月という設定は最後の最後で重要な意味を持つので、頭の片隅には置いておいてほしい。

 

火災は名前も設定されていない放火犯(今野浩喜)によるもの。今野浩喜も、異常な一面を持つ悪役とか、やっていることは悪なんだけども、心の底からの悪人ではない、って脇役にすっかり定着した感がある。画面に出てくると「あ、この人犯人」ってすぐにわかっちゃう人になっちゃったってことでもあるけど。話をストーリーのほうに戻すと、この犯人が無軌道に方々にガソリンを配置しまくったことも大事な伏線だ。

 

突入後はいつもの展開。緊急の治療を要する患者たちが次々と現れ、喜多見たちは息つく暇もないほど患者の対応に追いまくられる。消防隊も危険を感じて十分な消化活動をできないし、エレベーターも使えないという、ものすごくシンドい状況の中、高層階に取り残された観光客たちの救助に向かう東京MERの面々。犯人が方々にしかけたガソリンが次々と爆発し、負傷者がどんどん増える。爆発によって健常者たちもパニックを起こす。今まで元気だった人が突然倒れる。東京MERに合流して負傷者のケアにあたっていた千晶には切迫流産の危険性が生じる…。いやはや、これでもかこれでもかの試練のてんこ盛り。その都度登場する日替わりヒーローならぬ場面変わりヒーロー、なんとか凌いできた喜多見と千晶を襲う最後の大きな試練。果たしてこの試練を喜多見は乗り切れるのか?というところで、ネタバレスレスレでストーリー紹介は終了。結末は是非本編をご覧ください。

 

何しろ題名にも書いた通り、後半はドラマにしたら3〜4本は優に作れるだけの困難が襲いかかる「困難ポルノ」状態だ。これを醒めた目で見られるか、思いっきり感情移入して見られるかで、作品の評価は大きく変わってくると思う。私は制作側の意図を見透かした上で、その手に敢えて乗っかってドキドキ感を味わうことにしたが、悪くないカタルシスを味わえた。元々の作りが、ドキドキ感を散々煽った上で安心感をもたらすことを意図したものだったのだから、その拡大版だと思えばいい。何もやたらめったら悪口書きゃいいってもんでもないってことさ。