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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

恐れず読んでみたらきっと面白いはずの名著たちがずらり 『身もフタもない日本文学史』読後感

 

清水義範氏の教養シリーズ。

 

清水氏の「得意技」の一つはパロディー。何か元となる作品があって、それを踏まえて面白さを引き出す手法だ。ということは当然その「元となる作品」について深い知識がないといけない。というわけで、清水氏は本書で紹介する作品たちについて、かなりの知識があると推測される。しかも清水氏は愛知教育大学で学んでいる。教師として「人に教える」ことを学んだというわけで、要点を噛み砕いてわかりやすく解説してくれるはずだ。

 

なんてなことを期待して読んだわけではない。書斎の本棚をざっと見回して、パッと目についてので手に取って読んでしまっただけのお話だ。結果として、上記したような「恩恵」には与れたのだが。

 

さて、清水氏には『枕草子』を紹介した『ちょっと毒のあるほうが、人生うまくいく!』という著作があり、その「エッセイとは著者のセンスの良さをさまざまなレトリックで披露するものだ」という解説には感心させられた。

 

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本書では、『枕草子』に加え、『徒然草』、『方丈記』という古典随筆文の三大作品が取り上げられ、やっぱり同じ結論が書かれている。

 

その他、『源氏物語』は世界初といって良い長編恋愛小説で、かつ日本人にとっては、キリスト教圏の国々にとっての「聖書」と同じくらいの「普遍性」(詳しい内容まではともかく、光源氏という伊達男が女性を取っ替え引っ替えするという概要は「一般常識」としてほとんどの人が知っている)を持つという解説もあった。

 

また、中世における和歌のやりとりは現代におけるメールのやりとりと同じだという指摘にも膝を打った。洒落たレトリックを用い、短い文で意思を頻繁に伝え合う…。確かに和歌のやり取りはメールのやり取りと共通事項が多い。それを突き詰めた形のLINEがあっという間に情報インフラの一つに上り詰めたのも、日本人の持つ伝統的な文学様式が一つの要因かもしれない。

 

で本書は、時代を追って、『太平記』や『平家物語』、井原西鶴近松門左衛門十返舎一九などを紹介し、近世の文豪、夏目漱石森鴎外などに触れ、最後は現代文学にまで至る。紙幅の関係もあってか現代文学はほんのチョロリだったが、現代文学の項で紹介された作家たちは、まだ「時間の審査」を受けていない、すなわち後世にまで残っていく作家か否かについてはまだ未確定なので致し方なし。まあ、村上春樹くらいは100年後も「何度もノーベル文学賞候補になった」として教科書には載るかもしれないが。

 

こういう「文学史」に登場するような作品というのは、それこそ襟を正して正座して、一字一句をしっかりと味わいながら読まなければその真髄にまでは迫れない気がして、ついつい気後れしてしまうのだが、一回そういう気構えを解いて、読み下してみるべきなのだろう。何しろ触れてみないことには単なる知識の一つになってしまうが、それではいかにも勿体無い。長年の風雪に耐え、現代にも残っているということは何がしか人の心を動かすものがそこにはある筈なのだ。そして文学を味わうということはその感動を味わうことに他ならない。臆せず手に取ってみよう、と決意はしたが、いつになったら気が向くのかわかったもんじゃない(苦笑)。