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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

江川氏、意外と現代っ子の感覚にはマッチするかもしれない 『巨人軍論』読後感

 

入団時の騒動で「江川通れば道理が引っ込む」とまで言われた、江川卓氏による「巨人軍論」。自身の現役時代の投球術から、巨人軍のレジェンド、同時代の選手たちについての様々なエピソード紹介、そして2023年シーズンの巨人軍の展望を記した一冊。

 

江川氏に関しては複雑な感情を持つ巨人ファンは少なくないようだ。入団時の「空白の一日」から始まって、一発病、「野球は副業」などとマスコミに叩かれた、全力を出すことを忌避する(全力でプレーする選手を時に軽侮するような)言動、そして引退時の「中国鍼」騒動など、現役時代はゴタゴタ続きだった。生まれついての巨人ファンを自認していた私の親父ですら「江川はどうしても好きになれない」と言っていたくらいだ。まあ、ウチの親父は「巨人軍は紳士たれ」という、苔むした巨人軍の「社是」を愚直に守る高校球児のような清廉な選手が好きだったが、そんな選手はそうそういるわけがない。表向きはともかく、相当な遊び人が揃っていたようで、荒川コーチと畳が擦り切れるほどの猛練習をこなして一本足打法を身につけた王選手にしたって、夜遊びが過ぎて二日酔いのままグラウンドに出てくることが少なくなかったそうだ。表に出なかったのは、親会社の読売新聞が厳重な報道管制を敷いていたからで、江川騒動以来、読売以外のマスコミが読売の支配に反抗し始めていろんな旧悪が暴露されてきたからこそ、私たちの年代でもそうしたことが知れるようになったのだが。とはいえ、つい最近の坂本選手のスキャンダルもみ消しに見られるようにまだまだ読売の力は強い。

 

ところが世の中面白いもので、現役を引退した江川氏が、野球解説を始めたら、好感度が上がったのである。根性論や経験則一辺倒のそれまでの「大御所」たちの解説とは一線を画し、江川氏ならではの切り口で、あまり野球に詳しくない人たちも「なるほど」とうなづけるような解説をしたからだ。しかも引退直後は読売系列以外のTV局にも積極的に出演し、巨人贔屓ではない「リベラル」な解説を披露した。悪役専門だった役者が年を経て、渋い演技力で主役を張るようになったようなものだ。現役時代から、野球を、よくいえば俯瞰的に、悪くいえば冷めた目で見ていたからだろう。

 

江川氏自身の投球に関しての思いや、技術の解説は是非とも本文に当たっていただきたい。TVで見せるようなクールかつわかりやすい語り口は文章でも変わらない。レジェンドや元同僚選手のエピソードも然り。本文に直接当たっていただいた方が興味深いと思う。

 

最後に2023年シーズンの巨人に関しては、珍しく歯切れが悪かった。ズバリ優勝と言い切ってしまわないのは元々の江川氏のスタンス。現状の巨人が抱える数々の問題点を指摘することにより、「今年の巨人はいいとこクライマックスに行けるか行けないかという順位を争う程度なんだな」ということがわかるような文章を展開していくのだ。

 

題名にしたように、江川氏のこういう冷静さは、現代っ子に合うのではないかと思う。原GM兼任全権監督の強権指導では現代の若者にはパワハラと言われてしまうだろう。「投げろと言われればいつでもどこでも腕が折れても投げます」なんて熱さをリリーフ陣の全てが持っていると勝手に思い込んでいるように見えるのも問題。ここ数年、シーズン序盤から、優勝争いをしているかのような無理な救援投手の起用法を重ねてきた結果、「勤続疲労」で故障したり調子が悪い投手が続出してるし、有望と言われた若手の台頭もない。

 

肩の故障が原因で現役を引退した江川氏が監督になれば、少なくともこういう投手の無理使いはなくなるのではないか。リリーフに起用するなら思い切って若手をどんどん投入して、経験を積ませる。指導は選手各々に添った技術的なもので、むやみに精神論を説かない。実際にどうなるかはわからないが、少なくとも今の原監督よりはマシな起用法になりそうな気はする(笑)。変に野球一筋を強制することなく、緩やかなコミュニケーションで若手を導いてくれそうな雰囲気を江川氏は持っているような気がするのだ。もっとも、ピッチングの技術以外に、財テクなどの副業の指導までしちゃいそうでもあるが(笑)。