脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

未曾有のパンデミックを経験した今観ると何やら意味深 『アウトブレイク』鑑賞

 

 

USB-HDD録り溜め腐りかけ作品鑑賞の一環として観た一作はパンデミックを題材としたサスペンス作品。やさ男役が多い(※あくまで個人の感想です)ダスティン・ホフマンが珍しくタフな男を演じている。

 

舞台はアメリカの人口2000人程の小さな街。不心得者がアフリカから希少種の猿を密輸したことが発端。その猿は未知のウイルスを保有していたのだ。不心得者はその猿を同じく不心得なペットショップに持ち込むが、ペットショップの店主は顧客がオスを求めていたのに、不心得者が持ち込んだのがメスだったことからサルの引き取りを拒否。で、そのサルは放置されて、近所の森林の中へ。まあ、この逃げたサルが後々物語に重要な影響を及ぼすんだろうなってことはこの時点で思いっきりわかってしまった。

 

で、密輸の経路に心ならずも関わった人間の中から感染者が続出。未知のウイルスゆえに対処方法のノウハウがなく、医師も手の下しようがない。患者からの感染を恐れて、重々しい装備をつけて治療に当たったり、患者を二重三重に隔離する処置などのシーンはつい最近のニュース報道を想起させた。全くもってコロナ禍の最初の光景にそっくりだったのだ。

 

感染経路の特定や治療法の開発に取り組むのが軍医サム・ダニエルズ大佐。彼はアメリカ疾病予防管理センターに勤務するロビー・キーオとは元夫婦。夫婦関係は完全に破綻していたが、サムは何かとロビーに世話になっているという設定。大きな問題の解決に合わせ、破綻していた夫婦関係も修復するというハッピーエンドな手口が今作でも使われている。こういう筋立てを見るたびに、アメリカの家庭環境をめぐる問題ってのは、映画で描かれるどんな問題よりも大きいんだろうな、と思わざるを得ない。

 

さて、小さな街シーダー・クリークにはウイルスが蔓延。軍はこれ以上の感染を恐れ、シーダー・クリークを完全封鎖。脱走しようとする町民を追跡して負傷させてまで人の流れを止めようとする。そしてその上で、1960年代のザイールでとった「政策」の実行を決断する。すなわち、その地域全体を「焼却」してウイルスを殲滅するという施策だ。作品の冒頭部分でこの策の実施の場面が描かれている。

 

ここで、唯々諾々と軍の意向を実施させてしまっては、ストーリーが成り立たない。サムは、感染を拡大させず、かつシーダー・クリークも焼却させないという二つの矛盾する命題を解決するための唯一の策、ウイルスの血清の獲得、すなわち、シーダー・クリーク郊外の森林に潜む、感染源の猿探しに奔走する。ウイルスに感染した元妻ロビーを救うためでもあった。

 

軍が焼却処分を実施するまでに残された時間は短い。果たしてタイムリミットまでに猿を探し出すことができるのか?というドキドキ感は悪くない。そして事態はいよいよ緊迫する。どう緊迫するかだけは本編をご覧いただきたい。ほとんどネタバレだが、最後の一口だけは残しておくことにする。

 

鑑賞中の予測通りに、最後はハッピーエンド。どうやら終息しつつある現実のコロナ禍もこういうふうにハッピーエンドに終わってくれればいいな、と思った反面、たとえば、今後より強力なウイルスが発生した場合、現実社会はどう対処するのだろうという点が引っ掛かった。暴論ではあるが、感染地域が狭いうちにその地域そのものを「焼却」してしまうというのは、一定の効果はあるように思う。日本ではなかなか考えにくいが、世界にはこの策を実施しないとも限らない国は少なくない。もしかしたらその策は大の虫を生かすために小の虫を犠牲にした「英断」と称えられさえするかもしれない。今回のコロナ禍でわかった通り、そんなウイルスはいつ何時発生するかわからないし、いつまで続くのかもわからないのだ。そんな事態が二度と発生しないことを願うしかない。