脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

私の目指す文章の一つの理想型 『映画×東京とっておき雑学ノート 本音を申せば4』読後感

 

小林信彦氏が週刊文春に連載している人気エッセイ『本音を申せば』を書籍化したものの、文庫本版。「4」とあるから4冊目なのだろう。2007年の記事を収録してある。

 

小林氏の守備範囲は、私がこれから取り組んでいこうとしている分野とかなり重複している。すなわち、映画、お笑い、プロ野球などなどであり、そうした分野の折々のトピックスを紹介していく流れの中で、東京の街の移ろいや人情の機微を描写し、さらには世の中に対して、チクリとちょっと痛いところを突く提言が入るところなんか、まさに私のめざす理想的なエッセイの形だ。

 

あらかじめ断っておくが、私は氏の文章を真似ていくつもりはない。自分の書きたいことを書いていくと、どうしても小林氏の書く文章にテイストが似てきてしまうのだ。もっとも、小林氏の映画、お笑いに関する造詣の深さは他の方の追随を許さないほどであり、私などは、足下どころか、地中深くに沈み込んでいるレベルの知識しかないので「テイストが似ている」などという言い方は失礼千万である。あくまで、志向する方向性や文章の構成が、意図せずして小林氏寄りになってしまっているということだ。

 

方向性はともかく、文章の完成度、知識の深さ、豊富さ、人間的な度量の大きさ、全てが私の数万倍上であることは事実である。と言いつつ、一つだけ小林氏の「綻び」を発見した例をドヤ顔で挙げておく。この本の記載内容ではないが、氏は以前『夢がmorimori』という番組(ブレイク前のSMAPが「添え物」として出演していたことでも有名)のメインを森口博子森川美穂と紹介していた。森川美穂は確かに一時期レギュラー出演していたが、この番組は森口博子森脇健児をメインとしてスタートした番組であり、この二人がメインという位置付けは番組終了まで変わらなかったはずだ。これは「弘法も筆の誤り」ってやつでほとんど奇跡に近い誤りであり、特に昭和の世のエンターテインメントに関する小林氏の知識・見識の高さは余人を持って替え難いレベルにある。

 

映画評一つ取ってみても、一つの現代映画を論じるにあたり、比較の対象として文中にはせいぜい数作品しか登場しないが、文章には出てこないところで、おそらく、数十、数百の作品と比較しているであろうことが漏れ伝わってきてしまう。

お笑いについても然り。全盛期から晩年までを見守った芸人は数知れず。その蓄積の上に立って論じる「面白さ」は軽々に読み飛ばすことのできない重みを持っている。

 

しかも小林氏の軽妙洒脱な文体は、こうした「知」の重みを全く感じさせずに、興味深く読むうちに納得感や知識まで得られてしまうのだ。文章を書くことを志している身にとっては見習わざるを得ない書き方である。

 

私の目指す一つの理想像であるこのエッセイ集、他にも何冊か上梓されているし、おそらく本棚のどこかには突っ込まれたままになっているはずなので、探し出して読んでみたいと思う。