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オペラはもともと大衆演芸『リンボウ先生のオペラ講義』読後感

 

リンボウ先生のオペラ講談 (光文社新書)

リンボウ先生のオペラ講談 (光文社新書)

  • 作者:林 望
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: Kindle
 

 標題の書については一度別口のブログで取り上げたのだが、ここのところ、風邪と秋の花粉症とで、喉の調子が壊滅的に悪く、所属している団体の練習には出られないわ、カラオケにもいけないわで、歌というものに対しての渇望感が募ってきてしまったので、自分自身のガス抜きを兼ねて、再度取り上げてみたい。

 

改めて、標題の書は、リンボウ先生こと、国文学者林望氏によるオペラ初心者のためのガイド本。名作と言われる6つの作品を平易な言葉を使いながら味わい深く解説している。

 

今年の夏、私は、いろんな意味でタイミングがバッチリあってしまい、生まれて初めてオペラという表現形式の舞台を踏んだ。その体験は体験として、印象深いものだったが、オペラというものに触れて感じたことの一つに「物語の展開としては、現代の世にあってもそこいらにいくらでも転がっているオハナシじゃねーか」ということがあった。

 

私が出演したのはオペラの中でもド定番中のド定番『カルメン』だったのだが、これなんぞは純朴な青年が、奔放な水商売の女に入れあげた挙句フラれて、最後はストーカーとなって女を刺し殺してしまうというお話で、このテのオハナシはそこいらの週刊誌をひっくり返せば、掃いて捨てるほど出てくる。こんなオハナシでも、芸術作品として、作品が制作された時代から100年以上も繰り返し上演され、人々の感動を呼ぶコンテンツたり得ているのは、心打つメロディーをストーリーに乗せたことと、そのメロディーを高い精度で再現することのできる優れたパフォーマーたちによって演じられるからなのだ。

 

現代のポピュラーミュージックをインスタントラーメンだとするなら、オペラは。こだわり抜いた素材を一流の調理人が調理した極上の中華麺だとでも言おうか。豪華な中華麺は値段も張るし、それなりの場所で味わうことを要求されたりするが、決してとっつきにくいものではない。

 

スープがどうの、具材がどうのとウンチクを垂れるもよし、ただすすり込むもよし、それぞれの人がそれぞれの流儀で楽しめば良いものであり、決してしかつめらしい顔をして、厳粛な気持ちでもって鑑賞しなければならないものではない。

 

ただし、なんの予備知識も持たずに観劇に臨むと、単なる字幕読みの場となってしまい、せっかくのパフォーマーの歌や演技、オーケストラの素晴らしい音色などを味わい尽くすことができない羽目に陥る。せっかく安くはないおカネを払って、短からぬ時間も使って鑑賞するのだから、最後のスープの一滴を飲み干すように、隅々まで鑑賞し尽くしたいではないか!

 

そのためにあるのがガイド本なのだが、リンボウ先生が序章で語っている通り、劇場で売っている公式プログラムは通り一遍のストーリー説明しかしないし、専門の評論家が書く解説書はこやたら難しいモノになってしまいがちである。こうした隙間を埋めるのが、ご自身の書というわけである。

まだオペラを鑑賞したことがないという方には是非、この書を一読した上で、実際に劇場で鑑賞することをオススメしたい。劇場の敷居が高いと感じる人はDVDでも良いから、ぜひ「現物」に触れてほしい。人間という生物の営みがいかに変化しないか、そして、ありふれた題材を取り上げているのにもかかわらず、なぜ今の世に至るまで、目の前の作品が残ることになったのかがしみじみ実感できるはずだ。

 

リンボウ先生はまた、特にオペラ・ブッファ(喜劇的オペラ)は志村けんの『バカ殿様』に音楽がついたようなものだ、とも述べている。娯楽の一つとして、気軽に気楽に楽しめば良いのがオペラなのである。