脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

まさに横綱の風格 『劇場版 パヴァロッティ ハイドパークコンサート』鑑賞記

gaga.ne.jp

 

当家の最高権力者様がバイオリンのコンサートに行った際に、もらったパンフに、街中の小さな映画館で上映されていることが書いてあったので、早速観に行ったのが標題の作品。1991年にロックフェスティバルで名高いロンドンのハイドパークで上演されたパヴァロッティのコンサートを映画化したもの。映画とはいうものの、別にストーリーがあるわけではなく、ただただパヴァロッティの美声に聞き惚れるための一作だ。

 

唯一、ちょいとしたストーリーっぽかったのは、歌劇『マノン・レスコー』の中の一曲を「皇太子殿下のお許しが得られれば、ダイアナ妃に捧げます」と前置きして歌ったことくらいか。翌年にチャールズ皇太子とダイアナ妃の不仲は決定的なものとなり、別居に至るのだが、この時は内心はともかく、表面上は仲良く連れ立って鑑賞してはいた。

 

まあ、何しろ歌声が素晴らしかった。この駄文の表題に「横綱の風格」などと書き殴ってしまったが、「楽器」としての堂々たるガタイはそんじょそこらのブルドーザーくらいなら弾き返してしまうほどの安定感を誇り、そこから発せられる声たるや、公式ホームページに躍る「神に愛された奇跡の歌声」などというコピーがチンケな表現に思えてしまうほどの美しさと声量だった。

しかも決して無理をしている風がない。実際は体内で横隔膜がフル稼働してはいるのだろうが、楽々と、易々とという風情で、素人が出したら2秒で喉が潰れるほどの声を出して見せているのだ。しかも、演目は、各作品のいいとこ取り。誰もが知っているお馴染みのナンバーが次々と繰り出されるのだから、観客には熱狂するなという方が無理だ。生憎の大雨を降るそばから蒸発させてしまうほどの熱気が観客席を包んでいた。イタリアのカンツォーネの代表曲『帰れ、ソレントへ』や『オー・ソレ・ミオ』なんかの前にはロックのコンサートもかくやと思わせるような大歓声が上がったし、ど定番中のど定番である『誰も寝てはならぬ』なんざ失神者が出てもおかしくないほどの盛り上がりだった。

 

3年前に素人歌劇団でオペラの舞台を踏んで以来、少し真面目に声楽ってやつをやってみようと思い続けている身としては、何か参考になることはないかと考えて観に行ったのだが、凄すぎて参考もヘッタクレもなく圧倒された思いだった。喉を絞り上げるのではなく、文字通り腹の底からの声を響かせる。一番の基本だが、一番難しい。そういう意味では神に愛された奇跡の声というよりは奇跡の横隔膜と言った方が良いと思う(笑)。もちろんパヴァロッティ氏はその横隔膜を声を出すということに最大限に特化できる才能も、作曲家の意図を十二分に読み取る音楽的才能も持ち合わせているからこそ「歌手」として世界に冠たる存在たり得ているのだが。

 

観終えて、もう一度声の出し方を本気で訓練してみようと思ってしまった。流石にテナーは難しいが、バリトンまたはバスのキーで出来うる限り自分の体を楽器と化す訓練を続けていきたいと思う。