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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

橋上秀樹氏はなかなか調子が上向かない今の巨人にこそ必要な人材ではないか? 『だから、野球は難しい』読後感

 

今年からイースタンリーグに参戦したオイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブの監督を勤めているのが標題の書の著者橋上秀樹氏。橋上氏は1983年に捕手としてドラフト3位でヤクルトに入団し、野村克也氏の監督就任後に外野手に転向。現役時代は俊足巧打の名バイプレーヤーとして渋い働きを見せていたという印象がある。その後日本ハム阪神と渡り歩いて現役を引退。2005年からは東北楽天イーグルスのコーチに就任し、2007年からの3年間は野村監督の下でヘッドコーチを務めた。現時点では野村氏の戦い方のエッセンスを最も色濃く受け継いだ方だと言えるだろう。

 

そして2011年からはBCリーグ新潟の監督に就任。チームを創設初のチャンピオンシリーズに導くとともに、NPBLへも多数の選手を送り出し、育成と勝利を両立させた。その手腕を買われて、2012年に原監督率いる巨人に「戦略コーチ」という肩書きで入閣。3連覇に大いに貢献した。本書は、戦略コーチ時代のエピソードを主に紹介するとともに、現在の若い選手たちを育成していく際の指導者の注意点についても触れている一冊だ。

 

橋上氏がコーチに就任した頃の巨人は、金満補強で戦力は揃っていたものの、なかなか勝ちきれない状況下にあり、常に「首脳陣の手腕」に批判が集まっていた。そこで、当時の清武オーナーから「巨人の頭脳になってほしい」というアプローチを受けて入団したとのこと。招聘が決まった直後「清武の乱」が起こって清武氏が退団してしまったため、最初は首脳陣から「あんた一体何しに来たの?」という目で見られていたというこぼれ話も披露している。

 

ともあれ、戦力は充実しているし、監督も「勝ちたい」という執念を強固に持っているというのになぜか覇権を握れない。この状態に対し「戦略コーチ」としてどのように対処し、勝利に結びつけていったかが具体的なエピソードを交えて語られている。どのような方法で、どのような部分を改善していったのか、については是非とも本文を読んでいただきたい。題名通り、「だから、野球は難しい」と感じさせられるお話が満載だ。

 

読み終えた日は、松本で巨人vs中日戦が行われ、1点を先制した巨人が、2ランホームランを打たれて逆転負けを喫した。山﨑伊織の好投を打線が援護できなかったという展開は、まさに今年の巨人の弱さを象徴していたと言えよう。こういう時こそ橋上氏のような名参謀に、狂った歯車を矯正していただきたいものだ。打たないなら打てないなりに細かい野球で確実に1点づつ取り、投手力で逃げ切る。こういう野球を目指して欲しいのだが、中軸打者の一発が出ることばかりを期待しているように見えて仕方がない。

 

ここ数年、若手の台頭も見られていない。近い将来、岡本のMLBへの流出が噂され、坂本、丸、長野などの主軸も高齢化が進んでいるが、彼らの跡目を継げるような人材が育っていない。数年後、今年の西武を襲っているような惨状が巨人に訪れないとも限らない。こういう時こそ、戦略にも育成にも長けた橋上氏のような存在が必要だと思われるのだがいかがだろうか?