コロナの影響で、1年開催が延期された上、大半の競技が無観客で行われたため、五輪見たさに海外から大挙して押し寄せる客から金を踏んだくろうとしていた日本経済界が、史上最大の肩透かしを喰らう結果となったのが、2021年に開催された「2020東京オリンピック」。五輪がスポーツの祭典ではなく、一大経済活性化イベントと化してからは恐らく最大の損失を出したことだろう。
こんな大損だらけの五輪でもしっかり甘い汁を吸っていた人物はいたようで、五輪終了後に発覚したのが、五輪招致並びにスポンサー選定に関する汚職。電通の元重役で五輪組織委員会理事の高橋治之氏がさまざまな便宜を図るために多額の賄賂を受け取っていたとされる事案だ。
標題の書は、五輪招致からスポンサー選定に至る過程で高橋氏がどのような権限を持ち、どのような役割を果たし、その見返りとしてどれだけの金を受け取ったのかを追いかけた読売新聞の記者たちの取材活動にスポットを当てたルポルタージュだ。記者としての使命感に燃え、次々と事実を明らかにしていく姿が生々しく描かれている。様々な制約の中で、現場を訪れ、関係者にインタビューし、記事を書き、その記事をいつ公開すべきかで思い悩む。泥臭い、ど根性物語ではあるが、なかなかに骨太なストーリーでもある。
記者たちがどのように汗をかき、どのように事実を明らかにしていったかについては、是非とも本文をお読みいただきたい。映画『クライマーズ・ハイ』でややデフォルメして描かれていた記者の姿が、等身大かつ詳細に書かれている。地道な取材と取材から得た情報の裏取りこそが事実を暴き出すというという重い真実と、相手へのアプローチの困難さにめげず、取材を重ねていくど根性。見習いたいとは思うが、私には難しいお話かもしれない(苦笑)。
ストーリーとは別に抱いたのが、題名にもした「仕組みを作ったものが一番強い」という感想。高橋氏に意思決定権が集中してしまったのは、ひとえに彼が世界的なスポーツ大会運営に関するノウハウを持っていたからだ。こうした「祝祭」に関するノウハウなど持たない行政が業務を高橋氏が率いる電通に丸投げしてしまうのはある意味当然で、そこで権益を握った高橋氏のやりたい放題が許されてしまったのだ。
こんなデカいイベントは恐らく半世紀に一度くらいしか回ってこないだろうから、行政側としてはノウハウの蓄積のしようがない。となると、こういうイベントを仕切るのに長けた広告会社にお鉢が回ることは確実で、次回もし五輪が日本に巡ってくることになっても、また同じような状況が出来し、同じような汚職が発生する可能性は高い。幸か不幸か恐らく私の存命中に五輪が日本に巡ってくるような機会はないだろうから、同じ過ちを繰り返す姿は見ないで済みそうだが。