脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

二転三転する事件の様相とそれを追いかける刑事たちの執念の物語 『宿命と真実の炎』読後感

 

 

珍しく衝動DLしてしまったミステリー。作者貫井徳郎氏の評判が各種SNSで高いこともあり、一度は読んでみたいと思っていた作家の作品だ。この作品は山本周五郎賞を受賞した『後悔と真実の色』の続編だそうで、その物語の中で、スキャンダルを起こして警察を退職することを余儀なくされた西條輝司という二枚目も謎解きの重要な部分を担う人物として登場するので、貫井氏のファンにとっては思わずニンマリとしてしてしまう筋立てだろう。

 

さて、物語は一件の巧妙に事故死に見せかけた殺人事件から始まる。のっけから犯人がわかってしまう筋立てといえば、『刑事コロンボ』などが有名だが、この事件にも「コロンボ」に相当するような人物が登場する。所轄署である野方署の女性刑事高城理那である。彼女は柔道で鍛えたいかつい筋肉を持ち、顔の造作は決して美しくないという設定を持たされている。男社会の警察、しかも警視庁の捜査一課と所轄の刑事の間にも大きな壁がある。そんな中で、理那は捜査一課の村越という刑事と組んで捜査にあたることとなる。この村越という刑事が実にいい加減な性格設定。TVドラマにしたら、いかにも性格の合わない二人が組んで結局は事件の解決に立ち向かううちに相棒としての信頼関係を築いていくバディモノになりそうだ。しかし、女優が思い浮かばない。主役を張れるような女優さんはみんな綺麗な人ばっかりだからな。村越の方は候補者はたくさんいる。

 

さて、そんなことを言っているうちに第二、第三、第四の殺人が起こる。被害者はいずれも警官。第一、第二、第三の事件までは共通点があるのだが、第四の殺人には前三件との共通点がない。このままでは第四の事件以外は皆事故として処理されてしまうし、第四の殺人についての実行犯もどうも疑わしい。

 

読者には、最初から最後まで誰がやったかはわかっている。しかし、その動機は一体何なのだ?犯人は二人いると目されるのだが、その二人の関係は一体どんなもの?実行犯は明確なのだが、実行犯二人の正体と、動機は最後の最後まで不明なままである。

 

捜査の行き詰まりを打破してくれたのは、警備員の仕事についていた西條。西條の現在の唯一の楽しみは、目利きの店主がいる古書店に通うことだった。西條の推理にはこの古書店店主が大きなヒントをくれる。このヒントと、ホンのちょっとした被害者の行動から、思いもよらぬ結果が導き出されるのだが、それはぜひ本文をあたっていただきたい。

 

この事実をもとに、犯人逮捕への証拠探しをしている最中、犯人の一人である男が、無計画な殺人を犯してしまう。その男が勤めている会社に彼に好意を寄せている女子社員がいたのだが、その女子社員に後をつけられていることに気づかずに帰宅した男は、そこで事件の共犯でもあり、一番守らなければならないと思っている「人」との関係を目撃されてしまうのだ。自分が罪に問われても大切な「人」が助かるのならそれで良いと、男はあっさりと自首するのだが…。というわけで、結末は是非とも本文をお読みいただきたい。最後の最後まで目の離せない展開が続く。

 

警察は頻繁に自らのミスを隠すための隠蔽体質が深いと指弾され、それがさまざまなドラマや小説のネタになっているが、隠蔽体質が招いた冤罪と、それによって人生を変えられてしまった人々、というかなり重いテーマが底辺に潜んでいる。そしてそのつまづきが犯人二人の人生をどう変えてしまったのか?警察だって犯人をでっちあげるようなことを繰り返しているわけではなかろうが、例えばたった一度の冤罪事件でも人生が変えられてしまう人がいることありうる。殺人という手段で冤罪への恨みを晴らした犯人には救いはないが、もう一人の犯人は恐るべき罪悪感のなさで、刑務所からの復活を虎視眈々と狙う、究極の自己中というか、一種のサイコパスとして描かれている。この人物、本書の事件から何年かしてのち、新たな事件の主人公となる可能性大である。現実社会にはこんな人間がいないことを祈りながら、作品世界中では、どんなワルぶりを見せてくれるのかが楽しみではある。