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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

満を持してのウクライナ侵攻だったのか…  『イギリス解体、EU崩落、ロシア台頭 EU離脱の深層を読む』読後感

 

 

ここのところ連日に渡り、各メディアが大きく取り上げ続けているのが、ロシアのウクライナ侵攻。

 

各国の首脳や国連の場でもロシアを非難する声明が発表され、在日のウクライナ人たちが反ロシアデモを行った様子などが報道されているが、プーチン大統領にとっては文字通り馬耳東風らしい。ロシアに隣接したウクライナの二つの州を勝手に独立国家に認定し、その独立国家を守るためだとして、堂々とウクライナに侵攻している。

 

私自身はこんなことでも起こらない限りは欧州の情勢などにはほとんど興味がなかったので、浅学にして知らなかったのだが、ウクライナ国内の親ロシア勢力を支援することを名目としたロシアのウクライナへの軍事介入は2014年頃から始まっていたらしい。今までジワジワと行動していたのに急に派手に動き始めたのは何故か?

直接的なスイッチとなったのは北京冬季五輪の終了だろう。反米の「盟友」としての中国の国威発揚の場に水をさすことは今までのゴタゴタとは比べ物にならないくらいの禍根を将来に残すことになる。では今回のドンパチの素因となったのは何か?

 

例によって長々と前置きしてしまったが、ここでようやくイギリスのEU離脱という一連のムーブメントの影響ということが挙げられる。英仏独の3大国を軸に、軍事的にも経済的にもロシアと対峙し、旧東欧諸国をも取り込みつつあったEUから、最有力メンバーであったイギリスが離脱し、その勢力がかなりの度合いで減じたことこそが、ロシアが腕力にモノを言わせ始めた背景なのだ。プロ野球で例えてみれば、今の巨人打線からいきなり岡本が消えてしまったようなものだ。

 

ではイギリスは一体なぜ、加盟していた方がメリットが大きいと考えられるEUからの離脱という道を選んでしまったのか?詳細については是非とも本文をお読みいただきたいが、ざっくり言ってしまうと、独仏に主導権を握られたままの現状をよしとしない、旧超大国としてのプライドの問題と、持ち出しの方が多い負担金と分配金の問題、そして域内の人的交流の自由化によって大挙して押し寄せた移民によって引き起こされた社会問題の三つが主な原因である。

 

中でも一番大きかったのは最後の移民問題で、アメリカのトランプというトンデモ大統領に感化されて、一時世界的に大きな潮流となった自国第一主義が、イギリスでは元々イギリス国内に住んでいた人間の権益を守ることが最重要項目だと翻案され、国外からの移民を排斥する動きにつながった。域内での人間の自由な移動を前提としたEUの制度下では、食い詰めた外国人が続々と流れ込んできて、職は奪うわ、社会保障のためのコスト負担は増えるわ、治安は悪化するわでイギリスにとっていいことは何もない、という意見が醸成されたのだ。

 

とはいえ、EUに加盟していた方がメリットが大きいと判断していた人々もほぼ同数イギリスには存在していた。離脱運動の急先鋒として活動していたジョンソン現首相自身が、国民投票では僅差で残留派が勝利すると考えていた節がある。ジョンソン氏は残留に傾く空気に抗うことで一定の存在感を示し、「次」または「次の次」くらいの首相就任を狙うという青写真を描いていたというのが、著者岡部氏の読み。実際に離脱を「勝ち取った」直後のジョンソン氏は明らかに動揺し、政権の座には就かないと宣言して早々に逃げてしまった。その後結局紆余曲折を経て首相に就任はしたものの、おそらく彼はEU体制下での政権運営を考えていただろうから、痛し痒しというところか。国民投票を機に、スコットランド、北部アイルランドウエールズという元々は「別の国」だった地域に独立の機運が高まって、イギリス国内が大きく揺れる中での首相就任になったと考えれば、むしろジョンソン氏の当初の予想よりはるかに悪い条件下での政権運営となったと言えよう。

 

著者岡部氏は最後に、日英同盟の再結成を提案している。1902年に調印されたこの同盟はやはり当時のロシアの極東進出に対抗して結ばれた軍事同盟だったが、一旦欧州からは距離を置くことになったイギリスと、アメリカと中国のはざまで揺れ動く日本とで、新しい共同体を形成することにはそれなりに意味はあるように思う。とはいえ、お互いに資源の乏しい島国同士ゆえ、いざ超大国が本気になったら単なる弱者連合になってしまう危険性も否定し得ないのだが…。

いずれにせよ、微妙なバランスの上に成り立っていた欧州が不安定な状況下にあることは事実で、一旦狂ったバランスは、イギリスがEUに戻れば取り戻せるというものではなさそうだ。来年ラグビーワールドカップはフランスで行われる予定だが、ロシアの軍事行動が原因で中止なんてな事態にならないことを祈るしかない。