脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

日本初の本格的密室殺人事件の謎解きは拙さだけが目についた 『三本指の男』鑑賞記

横溝正史金田一耕助シリーズの映画化作品。今作の金田一役は時代劇界の大御所片岡千恵蔵氏。原作の名は『本陣殺人事件』であり、後年そのものズバリの名前で他の俳優を金田一役にした作品もいくつか制作されている。本作の制作・公開時にはGHQの検閲で「殺人事件」という言葉が使えなかったためにこの題名となったとのこと。映画の題名ひとつとっても、まあその裏には色んな事情があるものだ。なお、1947年という制作年であることもあってか、Amazonの商品検索には引っかかってこなかった。私が観たのはAXNミステリーで放映されたものを録画したものである。

 

物語は岡山県の田舎に向かう電車の中で耕助と白木静子(原節子)というメガネ女子が出会うところから始まる。伝説の女優原節子を画面で見たのは初めてだったが、なるほど、いささか日本人離れした美貌だ。外国人の血が混じっていると言われても違和感のないこの美貌は現代なら、もっと人気が出て、しかもそれが長く続いたことだろう。綾瀬はるか長澤まさみ新垣結衣の3人を足したくらいの出番はあったような気がする。

 

キャストで言うと、ネームロールにわざわざ「文学座」という表示が出て、文学座所属の俳優たちが多数出演していたのが印象に残った。故杉村春子先生なんざ40歳そこそこの年齢で、一族の長老的な立場を演じていたりする。故菅井きん女史が31歳で『幕末太陽傳』の中で遊郭の遣り手ババアを演じたのに匹敵する老け役だ。ちゃんとそれなりに見えちゃうところに、演技力の高さを感じはしたが…

さて、物語は、旧家である一柳家の当主賢造と小作農久保銀造の姪春子との婚儀数日前から始まる。耕助は久保家の知り合いということでこの結婚式に招かれたのだった。

 

田舎のことゆえ、旧家の跡取りが小作農の娘を娶ることに関しては反対的な空気が支配的だったが、賢造はそんなことはものともせずに春子との結婚を強行。ところがどっこい、婚礼当日の深夜、一柳家の離れに寝ていた新郎新婦が両方とも殺されてしまったから、さあ大変。しかも離れの周りには誰の足跡もなく、あらゆる出入り口は固く閉ざされたまま。つまりは完全な密室状態であり、殺人犯はもとより、その侵入・逃走経路も皆目見当がつかない状態。唯一の証拠らしい証拠は、三本指であることを示す血によって押された人間の手形だけ。おりしも、村には見慣れぬ、怪しい三本指の男が出現し、一柳家を探っていた、という情報がもたらされ、警察はこの見慣れぬ三本指の男が犯人だと決めつけて、村を上げてその三本指の男を探し回ることになる。果たして、この三本指の男が犯人なのか?動機は一体なんなのだ?密室にどうやって忍び込んで殺害したのか?

 

この全ての謎を解き明かすのが我らが金田一耕助氏。まあ謎解きについては、どの作品でもいいからご覧になって確認していただきたい。

 

しょうもないツッコミをいくつか。三本指の男が変装であることがバレバレ。白黒で、鮮明でない画面ゆえ、多少の「作り物感」は誤魔化せるとは思うが、近くで見たら、明らかに変装してんじゃねーのったのが丸わかりだと思う。今なら「コスプレの一環です」で笑って誤魔化せるかもしれないが、時代背景的に無理だろう。

トリックのキモである、カラクリがいかにもちゃっちい。こんなもん、思いっきり途中で故障して、企みが台無しになるんじゃねーの?って出来栄えだった。色んな仕掛け考えて、あえてスベリウケを狙うYouTuberじゃねんだから、もっと巧妙にやれよ、って言いたくはあったが、当時としては画期的だったんだろうね。

 

後年、ちゃんとした映像技術が整ってからの作品について一度観てみて、どんな処理がなされているのかを確認してみたいな、とは思った。