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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

テレビで真っ正面から政府に喧嘩を売った古賀氏の至極真っ当な政権の現状解説 『官邸の暴走』読後感

 

 

コメンテーターとして出演していた『報道ステーション』の自身の出演最終日に、「I am not ABE」のパネルを掲げ、安倍政権と、政権に忖度したテレビ朝日の姿勢を痛烈に批判したことがあまりにも有名な古賀茂明氏の現時点での新書最新作。

 

政権に近い場所で、官僚として働いていた、古賀氏ならではの、現政権、もっといえば題名にもある「首相官邸」の問題点と、官邸の暴走により置き去りにされたままの日本の問題を、簡潔な言葉でズバリと語っている。

 

安倍政権は、官僚の力を抑えるためだとして、首相官邸にさまざまな人を集めて、首相が直接手を下せる組織を作り上げた。この思想そのものは必ずしも間違いとはいえないが、首相に「だけ」都合のいい施策を推進する人物たちばかりを集めてしまったことは大きな間違い。各省庁の動きを牽制するどころか、政権に都合の悪い人物や組織を潰せる権限だけが肥大した問題だらけの組織に成り下がってしまった。

具体的にどの人物や、組織のあり方にどのような問題があるのかについては、ぜひとも本文に当たっていただきたい。政権内部でつぶさに、組織の役職者たちの人となりや組織としての行動を観察してきた古賀氏の視点は正確にして鋭い。「I am not ABE」というお手製のパネルには古賀氏個人の反骨精神というだけでは説明のつかない、大きな意味が込められていたことがわかる。

 

返す刀で、古賀氏は、首相官邸が、政権にとっての不都合な真実を潰すことだけに注力してきた結果として、国家百年の計とでもいうべき大きな政策が全く進捗していないことにも触れている。

 

古賀氏の思う、今後の日本の産業振興策はデジタルとグリーン、すなわち先進機器の開発とその活用方法の開発と環境問題への取り組みだが、ここでも惨憺たる現状が、具体的なデータとともに示されている。

 

かつて日本が世界のトップを走ってきていた、IT関連や白物家電の分野には今や日本企業の名前がない。世界中で最も需要の高いデバイスであるスマホに関しては、日本国内ですら、日本のメーカー製のモノを使っている人々は少数派。TVにしても冷蔵庫にしても今や最大手は中国である。頼みの綱は自動車だが、ハイブリッドも含め、ガソリンを使う車を排斥する方向にある世界全体の情勢に立ち遅れたままだ。自然エネルギーの活用も然り。さまざまな利害が絡んだ原発の利用再開だけが声高に叫ばれ、風力発電太陽光発電などの成長を阻害している。そしてこうした既得権益を守る方向にだけは首相官邸は非常に強い力を発揮する。

 

そして、何よりの不安要素は、こうした技術を下支えする高等教育のレベルの低さだ。日本国内では無類の強さを誇る東大にしてからが、すでに世界ランキングではアジアですらトップではない。海外の大学に留学しても、大半が企業や奨学金制度の紐付きであるため、せっかく知識を身につけても、海外でその知識を活かす時間がないまま日本に帰らざるを得ず、帰れば帰ったで日本というムラの中では、異端視されて冷遇される可能性が大きい。

 

読んでいて、気持ちが重くなった。私はせいぜいあと30年程度でこの世からおさらばだから、逃げ切ることができるだろうと勝手に高を括っているが、例えば、現在1歳の私の姪っ子ちゃんやその子供たちが直面していく、50年先、100年先の日本はどうなっていくのだろうか?本来なら、そうした遠い先々を見据えて、現在の最善手を考え遂行していくのが、国政に関与する政治家の役割であるはずだが、現時点での既得権益を守ることにだけ汲々とし、先々のことなんぞこれっぽっちも考えていないように感じてしまう。与党の惨状は前述したとおりだが、野党は野党で、枝葉末節のことでいちゃもんつけているだけだし、実際に政権をとっても、運営能力がないことは先の民主党時代に証明されてしまった。

 

同じ強権を発動するのなら、せめて20年先の繁栄につなげるための発動にして欲しいものである。現在は自分たちの体面を保つためだけに、権力を振り回しているだけの状態に見える。流石に我慢強い日本国民も支持率の低下という目に見える形で菅政権へNoを突きつけ始めた。

 

コロナの終息は焦眉の急だが、その対応とともにもっと大きな視座での政策遂行を望みたい。そういう意味でも五輪なんかやってる場合じゃないのだ。