脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

「おじさん」は有益な資産?『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋』読後感

 

 一時期「都市鉱山」なる言葉が流布したことがあった。使用不能、あるいは不要になった携帯電話やOA機器を鋳つぶして採れるレアメタルは十分に採算の取れる商いとなったし、市中に出回る電子デバイスはすでに膨大であった上に、増える一方だったので、それこそ無尽蔵と言って良いほどの莫大な量が、人口の多い場所、すなわち都市に集まっている現象を言い表した言葉だった。

 

都市鉱山」の比喩に倣えば、標題の書は、人間社会の中の「才能鉱山」とでもいうべき鉱脈の中で大きな部分を占める「働かないおじさん」たちに焦点を当てた一冊である。

 

「働かないおじさん」は何故に発生するのか?それは新卒一括採用で大量に採用した人員を全て同じような価値観に当てはめて教育し、その教育体制の中を勝ち抜いた人材だけを管理職として「出世」させ厚遇するというシステムが出来上がっていることが原因だ。社会全体の経済情勢が右肩上がりで、作れば作っただけのモノが売れた時代は遥か前に終わり、今や人口も減少しているし、経済状態もシュリンクしている状態。従って、実績をあげてもつけるポストが限られている現在においては、ある程度の収入だけは保証されているため「今更別の職場に行きたくない」とか「新しい仕事を探すのは億劫だ」と考えて、定年までひたすら今の会社にしがみつき続ける「働かないおじさん」が増えていくという状況だ。

 

何度か書いていることだが、私は「管理職」になることが目的ではなく、ある種の専門職になって、その職から得た専門的な知識や業務経験を活かして、その分野の専門会社に転職することが目標だった。で、自分の目標に向かうためにはどうしたら良いか、とその時々の上司に必ず尋ねたものだが、その際に返ってくる答えは「今の業務(営業職が長かった)で実績を上げることが条件」というものだった。で、決して好きになれなかった営業職でトップの成績をあげて、ようやく念願が叶うかと思ったら、そこで出されたのは僻地の営業所への異動辞令。一応資格としては一段階上がり、その営業所のNo.2という「昇格」を伴った異動ではあったが、営業の管理職で出世していくことに「喜び」を感じられなかった私は、完全にそこで腐って、メンタルまで患った。そこで完全に、希望の道への進路は絶たれたし、いわゆる出世も望めない状態になってしまった。堂々たる「働かないおじさん」の誕生である。読んでいて、大笑いした。まさに私の状況そのままだったからだ。で、今は会社の仕事への向上心など微塵も持たず、叱責だけは受けないように最低限の仕事だけして、捨て扶持をもらって私生活を充実させる方に注力している。年齢的にもここから頑張ったって管理職につけるわけでもないし、給料もそろそろ頭打ち。これで頑張って仕事しろって言われたって頑張れる人がいるだろうか?少なくとも私は会社の仕事が生き甲斐だ、などという心持ちにだけは絶対になれないと思う。

 

こうした、おじさんたちを再生しないことには、日本経済の衰退は食い止められないし、「働かない」ことはおじさんたちにとっても不幸なので、なんとかおじさんを再生しようというのが、著者の主張であり、そのために考えられる策をいくつか示してもいる。

 

一から教育しなければいけない新人と違って、ある程度経験も知識もあるおじさんたちを活用することの方がコストかがかからなくて済む、というのは一から山を掘り始めるよりは、すでに加工まで済んでいる希少金属を利用しようという「都市鉱山」の考え方とまさに一致する。ただ、働かないおじさんたちは、周りの人間に悪影響を及ぼすという「鉱毒」をも持ち合わせているので、対策を講じるのが望ましい存在というよりも、対策がマストな存在でもある。トップになれなかった官僚は民間企業に天下って、経験やコネや知識を活かして仕事をするという制度は、弊害が多くあったものの、業務を円滑に行ってメリットを生み出すという意味においてはそれなりに機能的ではあった。働かないおじさんたちにも、持てる知識や経験を活かせる場を提供することは必要であろう。個々の企業の人件費の削減にもつながるし、何よりも社会の共有財としての「おじさんの知」の埋蔵量はバカにならない。必要とされることでやる気になるおじさんも出てくるだろうし、そうなれば深酒かっくらって健康を害する事例も減るだろうから医療費にも影響してくる。いい事づくめじゃねーの、なんとかしなさいよ、政府の皆さん。

 

少子高齢化が進む日本社会においては、ミドル、シニアの年代を金食い虫にせずに、金の卵を生むニワトリに変えていく必要がある。私みたいに、最初から目指すところが違って挫折したのとは違う、単なる巡り合わせとか人間関係とかで、世に埋もれることになった有為の人材はたくさんいるはずだ。なんとかそういう人物たちをすくい上げる施策を望みたいものだ。私は挑戦しようとは思わないけどね(笑)。