脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

入団した時が野球人生のピークってのは切ない。でも… 『ドライチ』読後感

 

ドライチ

ドライチ

 

 

コロナ禍下ではあるが、今春はほぼ例年通りの日程でペナントレースの幕が開いた。9回打ち切りやら外国人の登録やら、細かい特別ルールはあるにせよ、日常の夕刻時の「定番」が戻ってきたのは喜ばしいことだ。

 

各々のチームが試合を行なっていく中で、より高い注目を浴びるのが新人選手。それも各球団の一位指名選手ともなれば、ファンは当然活躍を期待するし、アンチはどんなヤジを飛ばしてやろうかと手ぐすね引いて待ち構えている。序盤戦、阪神の佐藤選手はプロの壁にぶち当たっているようだが、日ハムの伊藤投手、広島の栗林投手などは上々の滑り出しを見せたようだ。我がジャイアンツの平内投手も、「宇宙人」井納投手の早々の二軍落ちを受けて、意外に早く出番が回ってくるかもしれない。将来性を買われた高卒選手たちはまだまだスポットライトを浴びるまでには至っていないが、巨人の岡本やヤクルトの村上のようにいきなりの大ブレイクを果たす選手が出てくる可能性は大いにある。また、プロ野球の今後を考えたら、大きく羽ばたくドラフト1位指名選手(以下ドライチ)が続々と出てくるようじゃなきゃ困るってもんだ。

 

さて、標題の書はズバリ言ってしまえば、期待を裏切ったドライチ8人の、プロ入り前から現役引退するまでについてを描いた一冊である。名前を見たら本当に錚々たるメンバーなのだが、すでに皆現役選手ではないし、球史に残るような記録を残した方もいない。巻頭に取り上げられた辻内崇伸氏などは、怪我の影響もあったが、ついに一軍では一球も放らないまま引退した。

 

レギュラークラスで働いたとすれば現巨人軍のコーチを務める元木大介氏くらいだが、彼も「曲者」止まり、つまり毎試合主軸で働くよりは、脇役として何試合かに一度印象的なプレーを見せていたに過ぎない存在だ。

 

荒木大輔氏や多田野数人氏もローテーションの一角を担ったことはあるものの、エースと呼ばれるまでには至らなかった。

 

彼らとて、「元ドライチ」というなんとも微妙な肩書きを得るためにプロの世界に身を投じたわけではなく、当然周囲からはクリーンアップであったりエースであったりを期待され、また自らもそうなるべく、陰に陽に努力を重ねたに違いない。人との出会いや身体のコンディション等々、ちょっとした運命の綾というか、時間のずれというかそういうもののおかげで大成できなかったのだ。彼らの背負う物語は、世の中に圧倒的に多い「敗者」にとっては大いに身につまされるオハナシなのだと思う。

 

「あの時にあんな奴が上司でなければ…」、「あと数ヶ月早くあの新製品が出ていれば…」、「あの時にあの地域を担当していれば…」、こうした我が身の不運を投影するには格好の相手が夢破れたドライチたちなのだ。

 

かくいう私自身も、数十年前に、周囲からも期待されてたし、自分も努力を惜しまないつもりで今の会社に入社したが、営業という仕事の内容が自分に合わないと感じ、なんとかその状況から脱するために、「自分の希望を叶えるには営業で実績を上げろ」という、時々の上司の判で押したような叱咤に従って、いざ営業で実績をあげたら、社内資格だけは上がったものの、結局はそのまま営業職で会社人生を全うしろと言われたに等しいど田舎の営業所への島流し。私の会社人生は「あの時別の会社に入っていれば…」で始まり、「あの時にあんなクソ上司のしたについていなければ」で止まっている。そしてこのまま終わってしまう可能性が限りなく高い。

 

この本のもう一つの「使い方」は、野球で大成できなかったドライチたちが、現在はどんな道を歩んでいるのかを知ること。例えば元ダイエー大越基氏は高校教師となり、何年か前には自ら率いる高校のチームを甲子園まで導いた。自らの努力で新しい道に進み、進んだ道でちゃんと成果を残している。

 

ただ単に挫折を味わってどん底を這いずり回るよりは、栄光から底辺までを見た経験をもとに、新たな道へと踏み出すことまでが、この本を本当に楽しみつくすこととなるのだろうと、私は考える。