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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

2020〜2021シーズンラグビー観戦記1(早稲田大学vs帝京大学 TV観戦)

毎年主力選手が変わる大学ラグビー 界において、9連覇という空前の大記録を打ち立てた帝京と、昨シーズン大学日本一の栄冠に輝いた伝統校中の伝統校早稲田との関東大学ラグビー対抗戦での対戦。

 

素早く動いてフィットネス勝負に持ち込みたい早稲田と、セットプレー、接点でのファイトを中心としたフィジカル勝負に持ち込みたい帝京という異なったプレースタイルの激突を予想して観戦開始。

 

開始早々、帝京ゴール前5mでの帝京ボールスクラム。このスクラムがこの試合の第一のモメンタムだった。現日本ラグビー協会副会長清宮克幸氏が監督に就任して以降、早稲田はスクラムを徹底強化し、バックスに球を供給するための「耐えるスクラム」からフォワードの力を見せつける「攻めるスクラム」へと大転換させた。とはいえ、チームとしての戦略が展開重視であることは間違いなく、「スクラムだけで決める」という京産大的なこだわりまでは少なくとも私には感じられなかった。ところが、このスクラム、早稲田が完全に押し勝って、帝京ボールを奪ったのだ。足並みが乱れた帝京フォワードからこぼれ出たボールを早稲田のSHが拾ったが、綺麗なパスを供給する余裕はなく、逆に相手SOにインターセプトされてしまったため、この時点では得点には結びつかなかった。しかし、それから数分後、今度は早稲田ボールで帝京陣5mでのスクラムが組まれた際に、この「押し勝ち」が効果を表した。帝京フォワードがスクラムの押しに集中するあまりに、サイド防御がお留守になったところを、易々とランプレーで突破してトライを奪ったのだ。相手が、エネルギーを集中してきた方向をほんの少しずらして得点に結びつける早稲田の真骨頂とでもいうべき先制トライだった。早稲田と対戦したチームは、こうした「はぐらかし」を繰り返されてしまうことで、心身ともにスタミナを奪われていく。この試合もそんな展開になるのだろうか?このトライの数分後に、やはりちょっとした逆襲からトライを奪った早稲田の面々が見せた笑顔を見てそう思った。

 

しかしながら、帝京も早稲田にいいようにしてやられるチームではない。持ち前の接点でのファイトで早稲田を上回り、1トライを返す。そして迎えた前半17分過ぎ。今度は帝京のフォワードがスクラムで見事な仕返しを見せた。早稲田陣22mライン付近の敵ボールスクラムをめくり上げて、ボールを奪取。早稲田のフロントローを完全にめくり上げた、見事なスクラムワークだった。ファーストスクラムの失態を取り戻す機会を帝京FWは虎視眈々と狙っていたのだろう。そして、奪ったボールをゴリゴリとFWが押し込んだものの、ここはトライならずで、再度早稲田ボールで5mスクラム。ここでも帝京スクラムは早稲田のフロントロー陣を完全にめくりあげて「寄り切り」。見事なスクラムトライを奪った。まさに倍返し。ここが二度目のモメンタム。この後は帝京が試合の主導権を握り、さらに1トライ1ゴールを加え7点リードを奪った。

 

ここでこのままリードを保ったまま前半が終わればより面白い展開になったかもしれないのだが、早稲田は、スクラムの仇はラインアウトで、とばかり、前半終了間際、ラインアウトからのモールを押し込んで同点に追いつく。帝京が得意なはずのモールで一本取られたことが、この試合3回目のモメンタム。ハーフタイムを挟んでもその流れは断ち切れなかったようだ。

 

後半最初のトライを早稲田が奪ってからは、完全に早稲田ペース。集散で上回り、そのプレッシャーに負けた敵が犯したミスを的確に得点に結び付けて、点差を広げ、その点差に焦った敵がまたミスを犯し…、という好循環を演出して、流れを完全に引き寄せた。帝京もしぶとく反撃はするものの、早稲田が一瞬の切り返しであっさりトライをとるのに比べると、いかにも非効率で、苦労に苦労を重ねて、エネルギーを散々使ってようやくゴールにねじ込むという印象で、心身の疲労度の差は明らか。

 

9連覇時の帝京は、徹底した栄養管理とフィジカルの鍛錬で一人ひとりのパワーが段違いであったため、接点での攻防では常に相手より一段上にいた。したがって精神的にも余裕があり、いいタイミングで、いいボールを味方に供給することができていたのだが、伝統校も手を拱いていたわけではない。フィジカル、フィットネスに関しては様々に研究を重ねて、帝京にキャッチアップしてきた。フィジカルが互角であるなら、あとは経験値や技術、そして心理面での差となる。

 

この試合に関しては、フィジカルはやや帝京の方に分があったものの、試合運び、ミスをつく技術、一瞬のスピードという点で早稲田が勝っていたように思う。トライ数の差は早稲田7本に対し、帝京は5本。最終的な点差の開きはさほどでもなかったが、早稲田は後半常にリードを保って、相手のミスを待つという余裕があったのに対し、帝京は常にギリギリのプレーで挑んでいくしかなかったという心理面の差が大きかったのだろう。繰り返しになるが、余裕のない心理状況下ではミスが生じやすくなるし、そのミスにつけ込むのが一番得意なのが早稲田というチームである。今回の試合は見事にその早稲田の術中にはまったというところだろう。

 

今シーズンはコロナ禍下という特殊な環境であるがゆえ、今後のシーズンがどうなるかはわからないが、帝京の巻き返しに期待したい。いかに焦らずにプレーするか?そしてそのためには、どんな準備をしていかなければならないのか?9連覇の遺産はこうした時にこそ活かすべきものである。