脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

二転三転するストーリーは秀逸『カラスの親指』鑑賞記

 

カラスの親指 by rule of CROW's thumb  通常版【DVD】

カラスの親指 by rule of CROW's thumb 通常版【DVD】

  • 発売日: 2013/05/29
  • メディア: DVD
 

 直木賞作家道尾秀介氏の同名小説の映画化作品。とある詐欺師グループの大作戦決行までと、その後日談を描いている。

主人公タケ(阿部寛)はテツ(村上ショージ)と組んで、小金をかすめとるようなケチな詐欺を繰り返しているという設定。元々は真面目なサラリーマンだったが、知人の借金の連帯保証人となったことで闇金に追われ、職を失う。妻を病気で亡くしていたタケは忘形見の娘を養うため闇金の取り立て屋としてこき使われる境遇に身を落とすものの、厳しい取り立てで自殺した女の娘が呆然と立ち尽くす様子を見て、つくづくと自分の身を悔い、闇金経理資料を警察に持ち込んで闇金を壊滅させる。しかし、その闇金からは当然の如く恨みを買い、自宅に放火され娘を失う。タケは自殺を考えるものの、死に切れず、闇金の報復を恐れて住所を転々と変えて逃げ回る日々を送りながら、詐欺もはたらくという生活であることが冒頭からの一連のシーンで語られる。

一方でテツについてはほとんど語られない。演じているのが村上ショージだけにいつ「ドゥー!」というお約束のスベりウケギャグをやってくれるのかを期待していたのだが、そんなことも全くなく、やや棒読み口調の台詞回しは気になったものの、重要な役割の脇役をきちんとこなしていたと思う。

このコンビはある日、闇金の追及から逃れて流れ着いた上野で、スリをしくじった少女を助ける。この少女まひろ(能年玲奈。この名前が使えてるってことはまだ例の騒動前だってことで、ググってみたらちょうど『あまちゃん』の撮影中にこの作品で報知映画賞の新人賞を受賞したとのこと)がちょうど住んでいたアパートを追い出されたということを聞いた二人は、自分たちの住まいにまひろを招く。しかし住まいにはまひろだけでなくその姉やひろ(石原さとみ。役柄の重要性にこの時点での能年玲奈とのポジションの差が現れていて興味深い)とその彼氏貫太郎(小柳友ブラザートムの息子だとは知らなかった)が転がり込んでくる。

 

奇妙な擬似家族関係を結んだ5人だったが、この住まいにも闇金の魔の手が伸びて来る。拾って育てていた子猫が惨殺されたり、家の前でボヤが起こったり…。タケは5人で逃げることを提案するが、テツは逆襲に出ることを提案。暴力当然、いざとなれば人殺しだってやりかねない、やばい連中相手に5人が仕掛けた作戦とは…?、というところでストーリー紹介は終了。この後はぜひ本編をご覧ください、としか言いようがない。ネタバラシはこのブログの本意とするところではない。

この後の展開では、前半部分で巧妙に仕掛けられた伏線が、これも巧妙にしっかりと回収されている。作戦遂行時、そして作戦後。この二転三転をぜひとも味わっていただきたい。結局誰が誰の掌の上で踊らされていたのかが、最後の最後までわからず、したがって最後まで見切ってしまわざるをえないのだが、それが少しも退屈で無かったところに、この作品の秀逸さがある。

 

主演の阿部寛はこの作品と前後して公開された『テルマエ•ロマエ』、『麒麟の翼』との合わせ技でブルーリボン賞の主演男優賞を受賞したそうだが、半モデル、半俳優という中途半端なポジションから本格的な俳優として名実ともに認められた作品となったようだ。枚数合わせで何の気なしに借りてきた一枚だったが思わぬ拾い物だった。