脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

なかなかに痛快な大逆転劇 『スイング・ステート』鑑賞記

 

 

スティーヴ・カレルの顔が写っていたので、ジャケ借りしてきた一作。アメリカのど田舎の小さな町で繰り広げられる町長選挙に関わるドタバタを描く。邦題となっている『スイングステート』とは、大統領選において民主党共和党の勢力が拮抗し、どちらに転ぶかによって選挙戦の行方を大きく左右する州のことをさす。主人公ゲイリーは、共和党のトランプに敗れた民主党ヒラリー・クリントン選挙参謀を務めた人物で、早くも次回の選挙戦に向けて、今回は敗れたウィスコンシン州民主党の地盤を固めるべく、YouTubeで人気の出た退役軍人ヘイスティングを町長選に担ぎ出そうとディアラケンという田舎町に乗り込む。

 

いきなり、民主党の大統領選に関わった「大物」の登場に戸惑うヘイスティングとその家族、仲間たち。しかし、ゲイリーの熱心な説得に突き動かされる形で、出馬を決意するヘイスティング。彼は出馬にあたってはゲイリー自らが参謀を務めることを条件とした。これが後々の大きな伏線となるので、鑑賞の際にはぜひ心に留めておいていただきたい。

 

さて、選挙参謀となったゲイリーは、大統領選で培ったさまざまなテクニックを発揮してそれこそ草の根から支持層を掘り起こし、選挙戦を優位に進めていく。途中で、劣勢の報を聞いた共和党もやはり大物選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)を送り込んでくる。というわけで、時には隠密裡に、時にはTVの画面で派手に罵り合うなど選挙戦はますますヒートアップしていき、選挙の行方を大きく左右する寄付金の額もどんどん釣り上がっていく。

 

そんなこんなでようやく投票日。最初は絶望的なほど支持率に差があったが、選挙前日にはややヘイスティング有利が伝えられるほどまでに拮抗していた。そして投票が締め切られ、結果が出た…。

 

ここからの展開がこの作品のキモとなるので、ぜひ本編をご覧いただきたい。「勝者」の描き方には驚かされること請け合いだ。

 

その後には、コメディーであるはずのこの作品を一気にシリアスにしてしまうシーンもある。ヘイスティングの娘ダイアナの長台詞でこの作品が一番皮肉りたかったモノはなんだったのかということがはっきりわかる仕掛けが施してあるのだ。

 

「四年に一度だけ馬鹿騒ぎをしにきて、その後は知らんぷり」荒っぽく要約するとそういう主旨の言葉を吐くのだが、これは日本の選挙区にも当てはまるお話だ。選挙の時だけ、取り巻きを引き連れて、知り合いのタレントを引っ張り出してお辞儀と握手をしまくって支持を訴えるが、一度当選してしまえば、後はほったらかし。自分達の暮らしを良くしてもらうために付託した「権力」は変な方向に使われ、潤うのはほんの一握りの連中だけ。アメリカと違って、日本の場合は寄付金集めは主な活動にはならないので、同じ逆転劇は間違っても起こらないが、何か住民の溜飲が下がるような出来事が一つくらいは起こって欲しいものだ。沖縄の米軍基地問題なんかはその最有力候補なのだが、住民の大多数が県外移設に賛成し、それを具体的政策に掲げている人を知事に選んでいるというのに、国は強引に県内への移設を推し進めて、押し切ってしまった。まあ、あそこに基地があるからこそ中国や北朝鮮、最近で言えばロシアの脅威に対抗できているというのも事実なので、「県民がいろんな不利益を被るから出てってほしい」ということだけでは動かせない複雑さはあるのだが。

 

この作品のように、「笑い」の衣で包み隠しながら、最後の最後で鋭く斬り下げるような言葉の刃を現状に突きつけるような映画は出てこないものかなぁ…。出てくるのは自分の体の一部の突起物を押し付けるような真似をする監督や俳優ばっかりだもんな…。