脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

久しぶりに三谷作品の真骨頂を見た思い 『short cut』鑑賞記

 

 

田舎ゆえに、レンタルDVDショップの閉店時間が早く(何しろ21時だ!まあ、その時間を過ぎたら、DVDショップはともかく、その周辺は狐狸妖怪の類が跋扈しそうな闇に覆われるのだから仕方ない)、店内に流れる『蛍の光』に追い立てられるようにして借りた一作は、CS界の永遠の中堅どころWOWOWが2011年に開局20周年を迎えたことを記念して作られたシュチュエーションコメディードラマ。

 

まあ、三谷幸喜の脚本ならば、そんなに外れることもないだろうという目論見も確かにあったが、この作品は三谷作品の真骨頂をしっかりと表していたなかなかの佳作だった。

 

では、三谷作品の真骨頂とは何か?そのうちの一つはキャストもコストも徹底的に絞り込んだ中で、台詞回しや役者の演技だけで勝負するところ、というのが私の考えである。

 

この作品には8割方夫婦役の中井貴一鈴木京香しか登場しない。後々になってちょっとクセのある敵役をやらせたらピカ一の梶原善が、モロに期待に添ったキャラクターで登場はするが、基本的には中井、鈴木お二方のセリフと演技だけで芝居は回っていく。ちょとググって調べてみたらカメラを止めることは一度もなかった「ワンカット・ワンシーン」作品だそうだ。演じる役者も大変だろうし、さまざまなシーンでさまざまなカメラワークを見せたスタッフはもっと大変だっただろうと思うが、この辺は、私が三谷幸喜という劇作家を知ることになった『12人の優しい日本人』と同様、そうしたシュチュエーションに耐えられるだけのキャストとスタッフをしっかりと集めてきている。

 

さて、ストーリーは鈴木演じる妻の実家近くのど田舎の山道(ロケ地は長野の伊那谷だったとのこと)からスタートする。妻の祖父の葬式に出席するために夫婦して車に乗ってやって来たものの、帰り道で車が故障。携帯も通じない、人も滅多に通りそうにない山道のど真ん中でどこか楽しそうな妻と、心底途方に暮れた様子の夫。夫はなんとかその日のうちに東京に帰りたいとして、人が通りそうな国道まで出て、そこから駅までヒッチハイクするという手段を選択する。その案に乗り気になった妻は、その山道が昔の遊び場であったことを思い出し、大回りとなる普通の道ではなく、一つの山の中を突っ切る獣道の抜け道を行こうと提案。ここで題名の『short cut』が効いてくる。要するに急がば回れを地でいくようなストーリーになるんだろうな、と思ったらその通り。近道のはずが、どんどん山深い方向に迷い込んでしまい、ついには妻にも現在地がわからなくなるという結果を招く。

 

そこで、改めてお互いがお互いに責任をなすりつけ合う夫婦喧嘩が勃発。ところがその夫婦喧嘩はこの場だけの問題ではなく、もっと大きな問題を孕んでいたことが発覚し、と、地理的にも心理的にも二人はすっかり大混乱。この辺りのストーリーの持って行き方は、くるぞくるぞと思わせておいて本当にその通りになってしまうというエンターテインメントの一つの形を見事に表している。どこかでみたようなオハナシだよな、とは思うのだが、三谷流の味付けがなかなか洒落ているもので、「パクリ」ではなく「オマージュ」なのだと納得することができるのだ。

 

二つ目の真骨頂がこのオマージュの巧みさだ。前述した『12人の優しい日本人』なんぞは、筋立ては『12人の怒れる男』そのまんまだが、シュチュエーションを変え、「日本人あるある」を巧みに取り込んださまざまな伏線を張って、それを回収し、最後の見事な一言で「原作」とは全くテイストの違った作品に仕上げている。この作品だって、具体的な作品名までは挙げられないが、要するに旦那の浮気が原因でギクシャクしてた夫婦関係修復の物語っていう、ここ10数年くらいのアメリカ映画では取ってつけたように最後に必ず描かれる無理やりな結末に導かれるのだ。まあ、それまでの展開が夫婦関係とは全く関係ない強大な敵との戦いではなく、自分たちでドツボにハマった状況がもたらしたドタバタだったのだから、「座りが良い」結末となるのだ。無理やりに「幸せな結末」をくっつけなくたって、自然に修復されていくっていう方法だってあるんだよ、って示し方が「普通のアメリカ映画」をみているよりは幾分か心地よかったし、アメリカ映画への皮肉にもなっていたような気がする。