脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

アメリカの「シンペイちゃん」は大人の心さえときほぐす 『幸せへのまわり道』鑑賞

 

 

トム・ハンクス主演のハートウォームな一作。

トム・ハンクスが演じるのは30年以上も就学前の児童を対象とした番組の司会者を勤め上げたフレッド・ロジャース。彼の歌う主題歌は、ある年代のアメリカ人なら、日本のアラフィフ世代の人間が大体ピンポンパン体操の歌を口ずさむことができるのと同じようなノリで口にできるに違いないだろう。とにかく彼の地では、広く知れ渡った人物だったらしい。

 

作中でも、障害を持ち、それゆえ頑なだった少年に時間をかけて丁寧に向き合った結果、最終的にはその少年にハグされるほどに打ち解けてしまうシーンが描かれるが、視聴率とか制作の都合とかいうものを一切考えずに、どうしたら目の前の人と心を通わせることができるのかを、最優先事項として考え、行動する。結果的に、彼の番組の内容は多くの子供達の心に強い影響を与え、その後の人生をも左右するような行動規範として生き続けていくのだ、ということが語られる。

 

そんなある日、フレッド氏の元を雑誌『エスクァイア』の記者、ロイド・ヴォーゲルがインタビューのために訪れる。先ほど紹介したハグのシーンはロイドが最初にフレッドと会った際のエピソードだ。

 

ロイドは辛辣な文体のゴシップ記事専門の記者であり、なぜ自分が、老舗子供番組の「人形と戯れる老人」のインタビュー記事など担当させられるのかという疑問と不満を持ちながらフレッド氏が指定した番組の撮影スタジオを訪問し、彼の番組制作をつぶさに眺めていく。事前に、ロイドは編集長から、このインタビューはフレッド自らがロイドを指名したとも聞いており、二重の意味で疑問を持ってもいる。

 

明らかに、やる気のないロイドに対し、フレッドはインタビューされるどころか、どんどんロイドにロイド自身の私生活についての質問をぶつけていく。

 

映画の展開としては冒頭から、ロイドの私生活上の問題は明らかにされている。ロイドは家族を捨てて出て行った父ジェリーに対して強い怒りを感じており、ロイドの姉の結婚式で、久しぶりに会うことになったジェリーを殴ってしまったばかりだったのだ。おまけにジェリーはなんとかロイドとの蟠りを解消しようと、家に押しかけてきたり、待ち伏せしたりしていた。

 

数多くの子供達に触れ、その中にいる問題を抱えた子供たちに寄り添ってきたフレッドには、ロイドの辛辣な文体が自らの内面のなんらかの怒りの吐露だということが一眼で分かったのだろう。というわけで、インタビューという名目でロイドを呼び出し、その原因を突き止めるべく、質問攻めにしたのである。

 

仕事にはならないし、触れられたくない部分にズバリ切り込んできたフレッドにイラつくしで、いよいよ怒りの遣り場を無くしたロイド。そんな時ジェリーが倒れた…。

 

というわけで、この後の展開は是非とも本編をご覧いただきたい。ほとんどネタバレだが、結末までのストーリーは各人で観ていただいて各様の感想をお持ちいただくしかない。

 

何かトラブルを抱え、そのトラブルの解決策を一人で見つけることができない時に頼りになるのは経験豊かな他人だ。子供にとっては、その「経験豊かな他人」の役割を演じるべきは、本来なら親であるはずだが、ロイドの場合はその親との確執がトラブルなのだから誰に頼っていいのかわかるはずもない。一人前の男としては簡単に弱みを見せられないという意地っ張りな部分もある。そんな心持ちのロイドにピッタリと寄り添ったのがフレッドである。フレッドにとっては大人であろうが子供であろうが、悩みを持っている人間を救うことこそが使命であり喜びでもある。その原理に従って行動した結果は…、ご想像の通りのハッピーエンドなのだが、押し付けがましさのない、素直に共感できるハッピーエンドではあった。親との確執の全くない子供なんぞないはずだから、このエンディングによって救われた人物も少なくないのではないか、と思う。

 

ところで、タイトルにした「シンペイちゃん」とは、『ママとあそぼうピンポンパン!」において、三枚目役だった坂本新兵氏のことだ。フレッド・ロジャース氏という存在を理解した際に、その役割に一番近い人物は日本でいうと誰だろうか?と考えて、一番最初に思い浮かんだのが彼である。彼は親しみやすい外見を持ち、細かな笑いを誘う三枚目というキャラ設定の下で、子供たちに番組のエッセンスをうまく伝える役割を担っていた。主役と脇役の違いはあれどフレッド氏の人物像と被る部分が多々ある。私生活において、フレッド氏に神学校で学んだ経験があったり、坂本氏に長い間保護司を勤めた実績があったりと、「人助け」系の顔があったことも共通している。お二人とも他人の抱えた問題を黙って見過ごすところができない人なのである。

 

最後の最後に余談の余談を一つ。ロイドの父ジェリーはロイドの姉の結婚式で酔っ払って一曲歌うのだが、その曲が『Something Stupid(邦題恋のひとこと)』。これはフランク・シナトラが実娘のナンシー・シナトラとデュエットしてヒットした曲であり、これを娘の結婚式で歌うというのは日本でいえば芦屋雁之助の『娘よ』を花嫁の父が歌うようなものだろう。私なら居心地の悪さに思わずトイレにでも逃げ込みたいようなシュチュエーションであり、そんな歌を臆面もなく歌いきるジェリーの「弁えのなさ」を象徴するシーンだと勝手に解釈した。なお、この曲は大瀧詠一師匠がご自身の娘さんとデュエットしようとして果たせなかった曲だそうで、のちに竹内まりや氏のカバー曲集アルバム『Longtime Favorites』の中で、竹内氏とデュエットしている。