久しぶりに本気で観たいと思える早明戦が帰ってきた。12月の第一日曜日に行われる、関東大学ラグビー対抗戦随一の大一番であり、首都圏にいなかった大学時代は、それこそTVにかじりついてリアルタイムの中継を観たのち、ビデオで何回も繰り返し見たものだ。1987年の雪の早明戦、特に最後の数分の早稲田ゴール前での攻防などは、今見ても体が震える。そして、その後、筋トレでもやらないことには気が済まなくなる(笑)。ラグビーファンならカラダが熱くならざるを得ない何かがそこにはある対戦なのだ。
しかしながら、ここ10年くらいは、そんな熱さをもたらすとは思えない対戦が続いていた。早明戦が極上のコンテンツ足り得ていたのは、ここでの勝者が、大学日本一、あるいは日本選手権の覇者と≒だったからだが、帝京が圧倒的な強さを誇っていた時代は、両校とも早々に帝京にそれも圧倒的な点数さをつけられて負け、「全勝対決」とか「買った方が優勝」などという枕詞がつかない、単なる日程消化の試合と化してしまっていたシーズンが大半だったのだ。
今年は、早稲田が全勝、明治は伝統校の一つ慶應に不覚をとって1敗ながら、この対戦で勝利すれば優勝という状態での文字通りの頂上決戦。隙のない早稲田を明治がどう崩すのか?時にツメが甘くなる明治を早稲田がどう切り返すのか、に興味を持って観戦開始。
案に反して、試合は明治が終始、攻守共に圧倒した。ボールポゼッションこそ、早稲田45%明治55%とさほどの差ではなかったが、どの局面においても「前へ」という明治ラグビーを貫く哲学に基づいたプレッシャーが常に早稲田を圧倒していた。しかもこの日は、攻めている時に見せる脇の甘さ(攻め込んでおいてのノックオン、密集のこぼれ球を敵に取られてしまう、一人が突出しすぎてフォローのメンバーが足りずターンオーバーを食う)もなく、ディフェンス網にも破綻がほとんど生じなかった。高校日本代表クラスがずらりと揃うタレント集団が、隙を見せなければ、点数的にはともかく内容的には一方的になるのだという好例中の好例と言って良いゲームだった。
スクラムは常に強力プッシュで早稲田の球出しを乱すとともにFWのスタミナと闘志を奪う。接点の攻防では常に優位、そしてボールを持った個々の選手は必ず前進する。早稲田は厳しいタックルを連発してはいたが、強い時にみられるような、せめている方が徐々に後退させられる、そして相手のフォローが少しでも遅滞を起こせばターンオーバーする、という場面がほとんどなかった。前半2本目の明治箸本主将の密集脇をついての大幅ゲインなど、いつも早稲田なら考えられない「大穴」だった。そして全員が「前に」を体現した時の明治は本当に強い。次々と走り込む選手一人一人が早稲田のディフェンス陣を文字通り一人一人弾き飛ばしてのトライゲット。これで完全に試合の流れが決まってしまい、その後も早稲田が優位に立てた局面、時間ともわずかなもの。その中で2トライを奪ったのはさすがではあるが…。
とにかく、この試合早稲田は、モメンタムな場面、すなわち試合の流れ自体を変えてしまうようなビッグプレーがほとんどできなかった。大学時代の試合中に脊髄損傷という重傷を負い車椅子生活を送る身となりながらも医師を務める雪下岳彦氏によれば、モメンタムが起こる場面はスクラム、タックル、キックオフという三つの場面だとのことだが、前述の通り、スクラムは終始劣勢、突き刺さるタックルは健在ではあったものの、明治の分厚いフォローがそのタックルの効果を最低限にとどめてしまっていた。キックオフに関しても、例えば相手のド肝を抜くようなリターンはなし。その上、確実に獲得して、その後の展開に繋げることが最低条件であるはずのラインアウトでもミス連発で、半分しか確保できなかった。これでは早稲田は攻め手がほとんどなかったとしか言いようがない。
シーズンはこれで終わりではなく、大学選手権の高いレベルで両雄が再戦する可能性は限りなく高い。昨シーズンも、対抗戦では明治が勝ったが、大学選手権では早稲田が雪辱を果たした。シーズンの深まりとともに、チーム力を上げてくるのは早稲田というチームの伝統でもある。
明治が現状の力の差を維持して返り討ちにするのか?早稲田のリベンジなるか?はたまた慶應、帝京の巻き返しはあるのか?流経や東海(コロナ感染で試合どころではないというお話もあるが…)といった関東大学リーグ戦の強豪はどう仕上げてくるのか?関西を制した天理大は悲願の日本一まで届くのか?など、早明の再戦以外にも見どころの多い大学選手権にはなりそうだ。今シーズンは自分の試合ができてない分、観戦に熱が入りそうでもある。