脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

善悪の判断は先延ばしにするにしても「研究」の必要だけはあると思う 『世界大麻経済戦争』読後感

 

 

ここのところ世間を騒がしているのが日大アメフト部部員の大麻所持事件。もう一つ同時期に朝日大学ラグビー部にも同様の事件があり、ラグビーファンの私としてはそちらの方が気にかかっているのだが、大学の知名度とロケーションの関係か、特に関東地方ではあまり詳しく取り上げられない。

 

日大の事件の方は、大麻所持云々というよりはリスクマネジメントのまずさやら、林真理子理事長の責任問題とかの方に論点がズレていきつつある感があるが、そもそもの問題として、日本ではなぜ大麻を所持することが罪になるのだろう?という素朴な疑問を抱いていたところに、折よくKindleのおすすめ欄に標題の書が掲示されていたので、早速DL。

 

まず、大麻が禁止されていた理由。それは摂取により、人体に様々な不都合が生じるから。大麻成分の中でもテトラヒドロカンナビノール(THC)という物質には、幻覚作用や記憶への影響、学習能力の低下等をもたらす作用があり、これが一番の問題とされている。日本の薬物取り締まりの総本山厚生労働省のHPでは、まずこの危険性が大々的にアピールされている。

 

ところが、世界の潮流は大麻の使用を認める方向に大きく舵を切っている。THCの濃度を0.3%未満に抑えるなどの規制を設けた上で、様々な病気に有効とされ、またリラックス効果の高いカンナビジオール(CBD)のメリットの方に着目して合法化が進んでいるのだ。先進国の中でもカナダはすでに合法化されているし、アメリカも連邦法ではまだ非合法だが、合法化する州が続々と現れ、いずれ連邦法でも合法化すると言われている。

 

高木沙耶氏が議員に立候補した際に公約として掲げた医療用大麻の使用解禁も、CBDの薬効に着目してのものだったのだろう。「元芸能人」につきまとうある種の胡散臭さのせいで、最初から一種の「トンデモ公約」とみなされてしまったが、CBDの薬効が確かならば、あながち暴論ではなかったと言えるのかもしれない。

 

標題の書では、こうした世界の動きの他、産業用の作物としての大麻ヘンプ)の有効性の高さにも着目している。ヘンプは工業用の素材に用いられる大麻のことで、布地に利用されるほか、その繊維の強靭さから、自動車の内装などにも利用が見込まれているそうだ。古くはフォードが採用しようとしたそうだが、その際はアメリカもまだ強固な取り締まりをしていたので、使用できなかったそうだ。病害虫に強く、年間少なくとも3度ほどは収穫できる大麻は農家にとっても「おいしい」作物であるとのこと。また光合成の際に二酸化炭素を吸収するので環境にもやさしい。なんだかいいことづくめの作物で、作らないほうが罪悪なんじゃないかと思わされる(笑)。

 

ただし、THCの危険性は存在し続けるし、こういういけない成分をこっそり売買して儲けようとする輩の発生も予想されることなので、医療用、嗜好用としての大麻の解禁に及び腰な日本政府の考え方も理解はできる。

 

中国やイスラエルは工業用の素材としてのヘンプについての研究を随分と進めているようだし、生産のみならず、販路についても確立を目指しているようだ。一旦販路が確定してしまえば、いざ医療用、嗜好用の大麻が解禁になった場合にその仕組みを用いて流通させられるという目論見を持っての施策。この辺、実にしたたかだ。

 

日本も薬効の研究もさることながら、こうした栽培から販売に至る仕組みについては今から研究を進めておくべきではないだろうか。著者矢部氏も危機感を滲ませているが、今のままでは、いざ全世界的に解禁という流れになった時に日本だけ完全に乗り遅れることが明白だからである。政治家のセンセイ方も目先の選挙のことばかり考えていないで、こういう、少し先に生じてくるであろうと考えられる問題に取り組んでいただきたいものだ。まあ、今は福島の汚染水放水問題でそれどころではないんだろうけどね。