脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

秩序と平安を取り戻した後に街を去る保安官は正統派のトリックスター 『ワーロック』鑑賞

 

リチャード・ウィドマークヘンリー・フォンダアンソニー・クインという当時の三大スター競演という謳い文句が躍る西部劇。1959年の作品だ。

 

題名の『ワーロック』とは舞台となる街の名前である。この街はマックオウン経営のサン・パブロ牧場の雇人たちの横暴で荒れ果てていた。衆をたのんで乱暴狼藉の限りを尽くすサン・パブロ一家は保安官まで追い出してしまい、まさに歯止めが効かない状態。

 

ワーロックの住民たちは合議の結果、凄腕の保安官クレイ(ヘンリー・フォンダ)を雇い入れることにした。しかし、彼を招き入れることに強硬に反対する人々もいた。クレイには賭博師として名高いモーガンアンソニー・クイン)が必ずついてくるからだった。「狼を除いて虎を得る」結果になりはしないかという危惧のためだ。しかしサン・パブロ一家の横暴ぶりにもはや耐えきれなくなっている人が多数を占めていたため、クレイの招聘が正式に決まる。

 

で、街に来たクレイは圧倒的な速撃ちの腕を見せて、サン・パブロ一家を圧倒。街では暴れることができなくなったサン・パブロ一家だが、馬車を襲ったり、家畜を盗んだりと悪行は止まらない。そんな一家に嫌気がさしたギャノン(リチャード・ウィドマーク)は一家を抜けて街のために働き出す。

 

その後、さまざまな伏線で、ギャノンは街のみんなに信頼を得ることとなり、モーガンはやっぱり嫌われるし、クレイはジェシーという恋人ができる。クレイは「業務」の一環として一家の一員であり、ギャノンの弟でもあるビリーを決闘の上射殺する。モーガンモーガンで昔の恋人リリーをめぐってギャノンと対立する。もはやサン・パブロ一家の悪行は無くなった、つまり「業務は終了した」ことを理由に、モーガンはクレイにワーロックを出ていこうと持ちかけるのだが、ジェシーと別れたくないクレイは街に残ることを主張。するとモーガンはギャノンを殺そうとし、クレイに射殺されてしまう。で結局盟友を失ったクレイはジェシーとも別れ何方ともなく去っていくのだ。

 

身も蓋もないネタバレで申し訳ないが、クレイはタイトルにもした通り、正統派のトリックスターだ。従来の共同体には全く存在し得ない特異なキャラクターを身に纏って、共同体に現れ、その共同体を活性化したのちに、結局はその共同体から追われてしまう。圧倒的な速撃ちという特技を持ち、その特技で街の敵サン・パブロ一家を一掃した後に結局自分がワーロックにいると、無用の対立を招くとして、去っていくクレイは教科書通りのトリックスターだ。共同体の住人からは「石もて追われる」ほどの憎しみは受けてはいないものの、盟友も、恋人も全て失って精神的にはボロボロの状態で去っていく姿なんざ、特に。

 

制作・公開当時に「トリックスター」という概念はまだ広く流布していなかったとは考えられるが、結局民衆は一時の圧倒的ヒーローではなく、永続的な平安を求めるという基本概念の下に、クレイというヒーローと為政者としてのギャノンとの意図せざる対立を描いていくことによって、思いっきりのトリックスター物語が出現してしまったというわけだ。

 

ネット上の評価などを見ていると、西部劇というフォーマットが退潮していく中で、複雑な人間関係を描いた社会派作品として評価している方も多いが、退屈な作品だとしている方も少なからずいる。どういう感想を持つにせよ、一度鑑賞いただくことをお勧めしたい。