脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

企業と「文人墨客」との幸せな関係が生んだ一冊 「シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』読後感

 

何度も繰り返し述べているように、私は文筆業を生業とすることを目標に、日々いろんなことに手を出している。成果は徐々に現れつつあり、現在週1の卓球記事連載1本と、不定期ながら月に2本程度のペースでラグビー記事を書いているが、収入はといえば、月にせいぜい1万円。これじゃ生業どころか、月々の書籍代にも全く足りない。というわけで、手当たり次第の仕事の口への応募の他に、何かやるべきことはないかと、いろいろ考えてみた。その中で、行動の候補に上がってきたのが、どこかの教育機関で文筆業について学び直すこと。そしてその中の一つの選択肢としてリストアップされたのが京都芸術大学の大学院の文芸領域への入学。過日、その入試説明会というかPRのためのオンライン講座に参加したのだが、その際に講師の一人として紹介されたのが、標題の書の著者山本隆博氏。総合電器メーカーSHARPSNS運用担当として、主にXでの発信を続けたところ、その内容が次々と話題になり、今や「シャープさん」という名称のインフルエンサーとして、世間にそれなりに影響を及ぼす人物になった。

 

山本氏ご本人は、自身の投稿がここまで世間に受け入れられたことに関し、戸惑いを感じているようだ。講座の際にもそう話していたし、標題の書にもそのような主旨の文章が書かれていた。企業のイメージ向上や、製品の売り上げを上げるためのSNS絵の発信であるにも関わらず、シャープさんの発信はそういった内容からはかけ離れ、山本氏個人が興味を惹かれた漫画の感想を語るものだったからだ。いわば、山本氏の「遊び心」みたいなものを、会社の経費使って発信していたようなもの。正直なところ、様々な問題で経営が厳しい中、合理性を追求し、効果効率を厳しく見定める経営者であれば言語道断の所業と断じてもおかしくないのだが、山本氏のSHARPに全く関係ない投稿は世間の耳目を集め、結果としてSHARPのイメージ向上に大いに貢献するのだ。

 

この現象、私が大学を卒業する頃の企業と広告の幸せな関係を思い起こさせた。当時は広告という領域の中で様々なクリエイターたちが企業とも商品ともかけ離れたところで自由に「遊び」、それが企業イメージの向上であったり、商品の売り上げにつながっていった。ペンギンのアニメに松田聖子の歌をのっけたビールのTVCMなんぞまさにその最たるもんで、なんでビールにペンギン?何でSweet Memories?って全く理解はできないものの、なんか醸し出してる世界観よくね?って感じでビールが売れてしまった。

 

しかし、バブル期が過ぎてしまうと、こういう幸せな関係は雲散霧消の憂き目を見る。何だか面白い、って曖昧さは許されなくなり、どの年代にどうアピールするか、そのためにはどのタレントを使って、どれだけの販促費を投じて、どれだけの収益を上げるか、こういう数字をデジタルに提示し、その達成度合いこそが広告の効果だ、というマーケティング視点ばかりが強く出てくることになってしまった。そして広告からは遊びが消え、機能や利便性の追求のみが全面に押し出された、面白みのないものばかりになってしまった。

 

山本氏の発信はそうした風潮を快く思わない方々が無意識に選び出した「遊び心」なのだろう。バブル期の広告との違いは、双方向であること。投稿を読んだ一般の方々からの反応や、それに対しての山本氏の返信が次々と話題を呼び、人気が高まって行った。こうなると、山本氏としてはより面白いものを追求しだすし、出来上がった面白いものはますます人気を呼ぶ、という好循環でシャープさんは人気者になっていった。その姿はまさに「文人墨客」のようだ。普段の企業活動には大して貢献してないが、社会に対しての鋭い目を持ち、時に人々の心を打つ発信を行い、結果的に企業の価値を高める。打率は低いものの、時折特大ホームランを放つ、リチャードみたいな存在。それが文人墨客で、広告華やかなりし頃はこういう文人墨客ってのを飼っておく余裕が企業にもあったような気がする。

 

とはいえ、山本氏の投稿はあくまで企業活動の一環であり、いかに消費者としての「読者」たちに企業として伝えたいメッセージを届けるかに関しての基本は外していない。

それは

・万人に広く薄く伝わるよりは、一人の人間に強烈に伝わるメッセージを発信する。

・他社の製品と比べてここがいいという伝え方ではなく、SHARPの製品にはこんないい性能が備わっているとアピールする。

の2点。

どちらも、広告に求められる基本的な効果だが、なかなか実現するのが難しい効果だ。そしてこの基本線をしっかり押さえているからこそ、山本氏がいかに自由に振る舞おうとも、結果的にはSHARPにメリットをもたらしている。

 

なるほど、山本氏に指導して貰えば、なんかいいことありそう、とは思ったが、費用その他の問題で、願書を出すか否かはまだ検討中。この書を読んだだけで、ある程度のことはわかったような気もするし、それ以上のものも得られるかもしれないし…。やんわりと魅力を感じることはできたが、行動を決定するまでには至らない。それは山本氏の言辞というよりは、自分の方向性がまだ定まり切っていないからだ、ということに気づけたのが最大の収穫かな。