県立の図書館の書棚で見かけて、なんとなく借りてきてしまった一冊。題名にもした通り表紙に興味を惹かれたことが一番の理由で、作者についても作品についても一切の予備知識なしに読み始めた。読了後の奥付けを見て初めてこの作品が「角川春樹小説賞」を受賞したことを知ったくらいだ。
物語は、一人の武士の出張旅行の描写から始まる。道中でその武士、岩泉源之進は一頭の堂々たる体躯の狼と出会う。この狼、「黒絞り」は後々この物語の「ジョーカー」的な役割を果たすのでしっかりと記憶しておいた方が良い。
場面は変わって、東北にあるとある小藩の藩士岩泉寛一郎の家。先に登場した岩泉源之進は寛一郎の父であり、狼狩奉行という役職に就いていたらしい。この小藩は馬が「名産品」で、藩にとって重要な財源であったが、狼による被害に手を焼いており、その対策として狼狩奉行を置き、その名の通り狼を狩る役目を任せていた。とはいうものの、狼狩奉行自らが狩りにおもむくことは少なく、普段は猟師に賞金を出して狼を駆除させるのと、二つある広大な牧を管理する野馬別当と連動して、馬を適正に養育するのがその職務だ。そして源之進は冒頭に描かれた出張旅行の帰途、黒絞りに襲われて崖から落ち、落命したことになっている。岩泉家からは源之進の後任を出さなければならないが、岩泉家の嫡男寛一郎は病弱でとても狼狩奉行など務められない、という設定になっている。
そこで白羽の矢がたったのが次男の亮介。武芸に打ち込んでいる25歳の若武者で、槍の腕は藩内でも5本の指に入るというキャラクターが付与されている。亮介は藩命に従い狼狩奉行に就任。そこに源之進の最期を看取ったという松岡という武士から「黒絞りに襲われ、崖から転落して落命した」とされている源之進の死が実は殺人ではないか、という疑惑が持ち込まれる。そして亮介は父の死の謎を解くために動き出し、謎の解明の過程で次々と悪事が暴かれていく、というストーリーが展開されていく。
ストーリーとしてはよくありがちなミステリーではあるのだが、次々現れる謎と、後々の謎解きに繋がっていく伏線、そしてその回収の過程が見事で、ついつい物語に引き込まれ、気づいたら一気に読み切っていた。どのような疑惑が生じ、どのようにその謎が解けるかは本文を読んで味わっていただくしかない。
最後の最後には大団円というべき結末を迎えてめでたしめでたしとなるとだけ記しておくことにする。亮介は槍の達人という設定の割には時代劇の剣豪みたいにバッタバッタと人を斬るわけでもなく悪人相手に苦戦するし、「自分一人の力ではなく様々な人々の協力を得て藩に巣食った悪を一掃した」という「強い組織のリーダーとはかくあるべき」というビジネス本みたいな賛辞を急に与えられて権限がグンと拡大したりするところが、私個人としてはちょっと興醒めだったのだが、案外とリアルな戦闘、論功行賞の姿なのかもしれない。
次の展開が気になって、ページを捲るのももどかしいという経験は久しぶりだった。権威主義的な物言いで恐縮だが、賞をもらうに値する作品だったと思う。
