今まで馴染みのなかった韓国映画を初めて観てみた一作。韓国社会の暗部を描いたノワールアクション映画。
韓国映画(ドラマ)というのは『冬のソナタ』とか『愛の流刑地』とかの、オバサマたちをメロメロにする恋愛モノが多いというのが先入観としてあったのだが、この作品はマッチョな出来上がり。主人公のウチョル(パク・ソンウン)が違法な賭けボクシングの試合で、相手を殴り殺してしまった罪で服役し、刑期を終えて出所してきたところから物語がスタートする。パク氏、表情の加減によって古坂大魔王にも鈴木亮平にもずんの飯尾和樹にも見えてしまい、のっけから鑑賞にバイアスがかかってしまった。ついつい、この顔は飯尾だ、この角度だと鈴木亮平だ、ここで一発『PPAP』カマしてくれたら大笑いなんだけどな、って見方をしてしまうのだ。ただし、シーンとしてはハードなものが続く。
ウチョルは盟友であり、賭けボクシングの胴元でもあったドシク(舞の海似)に迎えられ、ドシクの組織で働くよう誘いを受けるが、静かな生活を送りたいとしてその誘いを断り、カニ漁船に乗る寸前までいく。ここでそのままカニ漁船に乗ってしまったら、大間のマグロ釣り漁船に密着したドキュメンタリーのパクリ作品になってしまう。当然のことながら、カニ漁船には乗れない事件が勃発する。ドシクが差し向けてきたコールガール、ボムをめぐりジョンゴンという男を殴り倒してしまうのだ。このジョンゴンって男は刑事で、ドシクの組織が麻薬取引をする際の後ろ盾となっていた。ドシクの取引相手は脱北者ガクス(麻原彰晃似)という男でガクスはジョンゴンの立ち合いなしには麻薬を売らないので、ドシクとしてはジョンゴンを無下に扱うわけにもいかず、金も女も好きなだけ与えているという状態。
というわけで、静かに暮らしたいという希望は叶わず、否応なしにドシクの組織の仕事にどっぷりと浸ってしまうウチョル。唯一の救いはボムとの淡い恋愛。しかしこの恋愛もウチョルにとっては一つの足枷となる。どのような足枷となったかは本編をご覧ください。
本筋のストーリーとしては、ドシク、ガクス、ジョンゴンがそれぞれの欲望を満たすために、各々が各々を出し抜こうと画策し、そのための駒としてウチョルを使おうとさまざまな働きかけを行う。そんな中でウチョルはどの人物と組むことを選択し、どのように行動し、その結果はどうなったのかといくことを追いかけていく作りになっている。かなりカオスな展開なのだが、結末と思われた話が二転三転する展開は悪くない。本当に最後の最後まで話がどう転がるかについて興味を引っ張る工夫がしっかりなされ、しかもそれがわざとらしくない。なかなかに巧妙な作り手であったように思う。結末は少々苦々しいのだが、「北」の影を描き出しているところに現在の韓国の暗部の複雑さが現れているように思った。