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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

「日本のヤクザ映画」の文法に忠実な一作 『極道の妻たち 情炎』鑑賞記

 

 

録り溜め腐りかけ映画鑑賞シリーズ。このシリーズをまともに観るのは実は初めてだ。

 

ちょっと調べてみたらこの作品は、高島礼子姐さん主演作としては第5作目だそうだ。「極妻」シリーズといえば岩下志麻姐さん主演作ばかりが頭にあって、他の姐さん作品が5作(以上)もあったとは知らなかった。このことがまず驚き。

 

さて、ストーリーはといえば、「昭和残侠伝」そのもの。主人公が、敵役たちの横暴に耐えるだけ耐え、最後の最後に怒りを爆発させて敵役の本拠に殴り込んでバッタバッタと斬り倒し、血まみれになりながら首尾よく本懐を遂げて、そのままエンドロールが流れるという展開だ。「昭和残侠伝」では、殴り込みには高倉健の相棒として池部良が寄り添うが、高島礼子演じる主人公西郷波美子の相棒となるのは韓国人女性の白英玉(杉本彩)だ。

 

このテの結末がわかりきっている作品ではストーリーの彩が大切。すなわち、敵役たちをいかに憎々しく描くかが作品のキモとなる。作品の舞台は神戸の暴力団菅原組。現組長の菅原たつお(大木実)は大病を患って余命幾ばくもない状態。で、跡目を誰にするかについて菅原組の幹部たちは若頭であり、菅原組長の娘婿でもある河本一兆(保坂尚輝)を推すのだが、それに異を唱えたのが波美子。波美子は菅原組傘下の西郷組の組長。夫龍二麻薬中毒者に殺されたことで組長に就任したのだが、龍二の死の裏には実は大阪の巨大組織坂下組の暗躍があったことが後々明らかになる。

 

河本は商才に長けてはいるものの、出自が韓国であることもあって、菅原組長は跡目に指名しなかった。組長が跡目に指名したのは隆二の弟であり西郷組の若頭である恭平(山田純大)。というわけで波美子と河本、そして菅原組の幹部たちには思いっきりの対立が生じる。

 

そんな中乗り込んでくるのが白英玉。彼女は河本の韓国時代の妻で、子まで成していたが河本の罪をかぶる形で服役していた。服役中に日本にわたった河本を追いかけてきたが、しれっと別の女と結婚していた河本には当然恨みがある。

 

河本の側には坂下組がつき、恭平を亡き者にすべく暗躍が始まる。さまざまな「攻撃」があった後に、ついには河本子飼いの殺し屋集団が恭平一行を襲い、恭平には重傷を負わせ、恭平の妻となったばかりの堅気の看護師かおり(前田愛)が死亡する。かおりの死顔を見た波美子姐さんが完全にぶっちぎれて、ちょうど同じ時期に息を引き取った菅原組長の通夜の席、すなわち敵役たちが雁首を揃える場に殴り込みをかける。

 

題名にもした通り、実に以って「日本のヤクザ映画」の文法に忠実な作りだ。敵役の無法ぶりもそれなりに考えてあって、観衆の「納得感」が高まったところで、最後の殺戮カタルシスに向かう展開は手堅い。ただ、それまでのストーリー展開で「ケンカの強さ」を示すシーンが皆無であったにも関わらず、いきなり日本刀を握って、筋金入りのヤクザを縦横無尽に切り倒す波美子の姿には少々違和感があった。あんなに簡単に的確に人を斬り殺しまくるなんてマネ、できるわけがない。いくら長年女組長としてヤクザ組織を率いてきていたとしても。どこかで剣道の一つもやっていてなかなかの腕前だったとか、抗争でケンカの腕が磨かれて行ったとかの説明がないと、唐突に強くなってしまったという違和感は拭えない。

 

まあ、これもヤクザ映画のお約束として飲み込むべき設定なのだろう。敵役の憎々しさはそれなりに仕上がっていただけにやや残念ではあったが。