脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

殺人者たちの心理にアプローチする意義とは? 『殺人者はいかに誕生したか―「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く―』読後感

 

私は死刑廃止論を支持している。人道的観点とかなんとかいう高尚な理由からではなく、現行法下で死刑を宣告されるような重罪を犯した犯罪者には、死を以って償わせるのではなく、死ぬまで強制労働を科し、そこから得られる利得の大半を被害者たちに補償金として支払うべきだと考えるからだ。もちろん、補償に回せる私有財産があればそれを全て没収した上での話だ。例えば殺人の被害にあった方の遺族の「極刑を望む」という心情は理解できなくもないのだが、極刑を科したところで死んだ人が帰ってくるわけでもないし、遺族の悲しみ苦しみが消えるわけでもない。であれば犯人たちには最大限の補償を求めるべきで、それには終身刑にした上での強制労働で得た収益を充てることが適当であると考える。そしてその上で、徹底的に心理的、環境的な背景を分析して、再発の防止の「研究材料」になってもらう。一般人よりは権利が制限される犯罪者、それも極刑に値するような犯罪者であれば、少し踏み込んだ研究の「材料」にしても許されるのではないか?

 

まあ、このテのことは法律の専門家やら哲学者やらという、頭のいい方達が散々考えた末に現在の形になっているのだろうから、床屋政談レベルの私の戯言なんざ、死刑肯定派の先生たちにたちまちのうちに論破されちゃうんだろうけどね。

 

さて、標題の書は、臨床心理士として犯罪者たちに向き合ってきた長谷川博一氏が、その中でも特に凶悪な犯罪を犯した者たちと面談を重ねた記録を書き綴っている。宅間守宮崎勤畠山鈴香、加藤智大、福田孝行といった、いずれも大量殺人、猟奇殺人を重ねた「錚々たる」面々だ。

 

長谷川氏が、心理学の専門家として、いかに彼らにアプローチし、胸襟を開かせ本音を引き出したのか。これがこの本の最大の読みどころであり、同時に長谷川氏のアプローチは心理学者がどのように犯罪者の心理にアプローチしていくかの事細かな説明ともなっているので、是非とも本文にあたっていただきたい。

 

私個人としては、大学生時代の心理学の講義を思い出した。ズバリ犯罪心理学についての講義ではなかったものの、カウンセリングやインタビューに際しての注意点などに関し「あ、これ講義で聞いた」とか「テキストに書いてあったよな」ってなことが少なからず出てきたからだ。おお、実際の現場でも同じこと言ったりやったりしてんじゃん、と変な関心の仕方をしてしまった(苦笑)。

 

登場人物の中には、すでに極刑を執行されてしまった者もいるが、彼らを生かしておいて、深く研究すれば、例えば猟奇殺人を犯しそうな人間の傾向などというものに一定の知見を得られたのではないだろうか。もちろん「人道的立場」に立てば犯罪者であっても最低限の個人としての尊厳は保たれるべきだし、また、ある「傾向」を特定してしまうと、そうした傾向を持っているというだけで犯罪を犯してもいない人間を無闇に疑ったり、行動を制限するという非常に危険な状況を生み出しかねないので、迂闊には踏み込めない研究ではあるのだが。