脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

努力に勝る天才なし 『山本由伸 常識を変える投球術』読後感

 

 

2021、22シーズンの勤続疲労か?あるいはWBCの影響が残っているのか?今シーズン開幕後の調子はイマイチだが、現時点でのNPBでは最高の投手と言って良いのが山本由伸投手。

 

バファローズファンでもなく、スカパーでプロ野球の試合を追いかけるほどの情熱は待ち得ていない私にとって、山本由伸選手は、気がついたらいきなり凄いピッチャーとして出現していたという印象。

 

2016年のドラフト4位。正直、この指名順位の選手はよほどの実績を上げない限りは注目されない。しかもオリックスはここ2年はリーグ優勝し、昨年は日本一に輝いたとはいえ、山本選手入団当時はずっと下位に低迷しており、関西地区はともかく、関東地区でのメディアの取り上げ方は決して大きいモノではなかった。2018年シーズンで中継ぎとしてブレイクすると、翌2019年には先発に転向。この頃から、メディアでちょいちょい名前を目にするようになったかな、という印象。そして2021、22シーズンは圧倒的な成績で2年連続して投手5冠を達成。オリンピック、WBCなどの国際大会では「日本のエース」としても活躍した。

 

標題の書は山本選手のトレーニング方法とについて詳しく述べるとともに、一度決めたら他人になんと言われようと頑として自分の考えを変えない芯の強さを浮き彫りにするエピソードを多数紹介している。

 

山本選手はプロ入り直後から、高校時代までの自分のピッチングではプロでは通用しないし、特に肘への負担が大きいと感じていたようだ。そこで、筒香嘉智選手が通い、トレーニングの指導を受けていた「矢田整骨院 鶴橋」に入門し、BCトレーニングという独特のトレーニングに従って体を鍛えるとともに、ピッチングフォームもガラリと変えることになった。

 

高卒の新人選手が、最初のキャンプには今までと全く違うフォームで臨んできた。球団の首脳陣は何事かと驚き、すぐさま「正しいフォーム」へ矯正しようとしたようだが、山本選手は首脳陣の指導に従わず自分が考えた理想のフォームを追求することに専念したという。

 

こういう反抗的に映る態度は、ややもするとコーチ陣の不興を買って、下手をすれば飼い殺しの憂き目にあいかねないが、山本選手をスカウトした山口和男氏のフォローもあって、山本選手は見事に、自分の身体能力を活かした上に、身体への負担も少ないフォームを固めることができた。この辺の頑固さは独特のバッティングフォームを矯正しようとしたコーチに「ダメでクビになるのは自分なんだから、自分の打ちたいフォームで打たせてくれ」と言ってオレ流を貫いた落合博満氏に通じるものがある。両者ともにあまり故障することもなく、さまざまな記録を打ち立てているところも共通している。

 

では山本選手躍進の主要因となったBCトレーニングとはどういうものか?これは流石に文字だけではイメージが湧かない。一番いいのは自分で入門して指導を仰ぐことだろうが、このトレーニングは非常に難しいそうで、よほどの覚悟がないと飛び込んでいけないもののようだ。矢田整骨院はHP上に「一見さんお断り」という看板を掲げてもいる。体質的に合わない場合もあるので、同じようなトレーニングを積んだとしても山本選手と同じような球が投げられるかというとそういうものでもないらしい。

 

一読すると、山本選手はたまたま筒香選手に弟子入りして、たまたまBCトレーニングに出会ったかのようだが、おそらく本人の中ではさまざまな試行錯誤があったのだろう。まずは、さまざまに考え、実践してみて、その中で自分に合う方法を見定める。その上でその方法を実現するために必要な身体の各部分の動きを分析し、その動きをスムースに、確実に行うためにはどういうトレーニングを行わなければならないかを練る。そして一度こうと決めたら誰に何を言われようが変えない。これだけのことを高卒間もない頃からしっかりやり切れたからこそ、今の山本選手の姿があるのだ。

 

今シーズン、山本選手はフォームをかなり変えた。WBCでは安定したピッチングを見せたが、シーズンイン後の成績はイマイチ。ただし、自分で自分の「勘所」を押さえている山本投手は、きちんと修正してくるはずだ。今シーズンの活躍と、数年後のMLBへの飛躍を期待したいと思う。