2001年公開の米映画。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争終了間際の同地における空軍大尉の脱出劇を描く。
主役のクリス・バーネット大尉を演じるのはオーウェン・ウィルソン。私がこの俳優に出会ったのは『ナイト・ミュージアム』で、それ以降もコメディー作品に出演していた姿しか見たことがなかったのだが、今作ではシリアスな役を演じている。会話の端々に若干のユーモアが感じられたくらい。へー、こんな作品もやってたんだ、と思いながら鑑賞。
さて、ストーリー。クリスとスタックハウスの海軍パイロットチームは、他のメンバーがクリスマス休暇だというのに偵察飛行を命じられる。そこでレーダーで異常を捕捉したため、通常のルートを外れて、異常の確認に向かう。そこに待ち受けていたのはセルビアの武装勢力。シンシナティ協定による停戦合意に反して集結していた武装勢力による砲撃を受け、偵察機は墜落。パラシュート脱出した二人だったが、重傷を負ったスタックハウスはクリスが救援要請のために、通信機の電波が通じる場所を探している間に敵に捕えられ、銃殺されてしまう。
で、ここからクリスの逃走劇が始まる。クリスの上官レイガード司令官(ジーン・ハックマン)はすぐさま救援隊を差し向けることを画策するが、停戦合意がなされたばかりの状況下で、米が軍を差し向けたとなれば、紛争が再発してしまう可能性が高い。レイガード司令官のさらに上役となるピケ提督は救出作戦を許可しない。
しかしながら、義に厚いレイガード司令官は救出部隊を差し向けるために、クリスがボスニアで行方不明になっていることをマスコミにリークしてしまうのだ。激怒する提督と、意思を曲げない司令官。司令官に肩入れする方々が多いのは百も承知だし、私自身も司令官の立場ならそうするだろうとは思う。ただし、提督の考え方にも一理ある。ここで停戦合意が反故になってしまえば数多くの命が失われることになってしまうのだ。人一人の命はもちろん重いが、その一人のためにさらに多くの人々の命が奪われる危険があるこの救出作戦は果たして意味あるものなのだろうか?結局救出作戦は遂行され、クリスは救出されるのだが、アメリカ人一人の命は現地の方々の複数の命より尊い、という主張が透けて見えるようで複雑な気分となった。
ストーリーの中でも、クリスが逃走中に転がり込んだ難民の隠れ家は、追っ手である部組勢力に攻撃され、そこに隠れていた人々の大半が殺害されてしまうのだ。隠れ家の中の一人の男が、すぐさま出ていけと、クリスに詰め寄るシーンがあったが、私はこの男に同情したい。
最終的にクリスは救出され、めでたしめでたし。同時に、クリスのチームが入手していた武装勢力の配置図のデータも得られて米軍は万々歳。でも私は前述の通りこのハッピーエンドを心から祝福する気にはなれなかった。
このお話そのものは、さまざまな人々が、自分の体験談を下敷きとしたものだと主張しており、一人の方は訴訟にまで及んでいるそうだ。いずれにしても、奇跡の生還云々よりは戦争という極限状態の中での、選択の難しさを考えさせられた一作だった。ウクライナでは日々こうした選択が繰り返されているのだろうし、今後のロシアの動向によっては日本だって、極限状態に追い込まれる可能性は否定できない。自分自身が「選択」を迫られるような事態に出くわしてしまったら、想像すると、大いに考えさせられてしまう。