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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

ストーリーよりキャストに目が奪われた一作 『日本侠客伝』鑑賞記

 

HDD録り溜め腐りかけライブラリーからの鑑賞作。東映京都撮影所制作のドル箱。のちにシリーズ化され、当作品を含め11作が制作されている。故高倉健氏の人気を決定的にし、『網走番外地シリーズ』や『昭和残侠伝』シリーズの先駆けともなった歴史的作品でもあるらしい。

 

舞台は東京・木場。古くから木材の運送業を営んできた木場政組は筋目を通した義理堅い商売で、材木業者と深い信頼関係を築いていた。そこに猛烈な攻勢をかけてきたのが沖山運送株式会社。

 

まあ、この沖山運送が実に悪どい。最初はダンピングで木場の配送業の需要を一気に奪っておいて、いざ顧客が鞍替えしてきて業務を一手に握ったら、今度は法外に値を釣り上げ、抗議してきた顧客には軍部を背景に脅しをかける。全員の顔に隈取りでも入れたいほどの憎々しさだ。

 

この横暴に耐え、必死に旧顧客たちの要望に応え続ける小頭辰巳の長吉(高倉健)。ところが組員の一人赤電車の鉄(長門裕之)が、沖山運送の社長が言い寄っている芸者粂次(南田洋子・夫婦共演でしかも「恋人」役!!)にちょっかいを出したからたまらない。鉄は沖山運送の「社員」に刺殺されてしまう。

 

木場政組で最初に爆発したのは客分の清治(中村錦之助)。沖山運送に拳銃とドスを持って単身殴り込むものの多勢に無勢で返り討ち。ベタな演出ではあるが、観るものの怒りと悲しみを極限にまで高めさせる効果を狙ってのものだろう。当時の世情であればこの効果は十分にあったに違いない。なお、この作品の主役は当初中村錦之助になるはずだったが、それまで「正義」の役しか演じたことのない錦之助がヤクザ役に難色を示したため、『人生劇場 飛車角』で評価が高まりつつあった高倉健氏の主役抜擢が決まったのだそうだ。錦之助だけ俳優としての格が違うため「特別出演」とクレジットされている。

 

というわけで、最後は長吉の怒りが大爆発。観客の怒りと憎しみを全て背負って沖山運送に殴り込みをかけた長吉はついに沖山社長を斬殺する。モロにネタバレだが、謎もストーリーもへったくれもない。何しろ典型的勧善懲悪のフォーマットを楽しむ作品なのだから仕方ない。怒りと悲しみを我がことのように感じ、最後の場面でカタルシスを得るのがこの作品の味わいどころである。

 

ストーリーとは別にキャストの豪華さと若々しさに目を惹かれた。前述の4人の他、松方弘樹田村高廣津川雅彦長門氏兄弟共演でもあった)、三田佳子藤純子(現富司純子)など後の作品で主役を張った俳優たちが脇役にズラリ。ミヤコ蝶々南都雄二コメディリリーフに、個人的には思い入れの深い「焼津の半次」こと品川隆二(ただし今作ではシリアスな役どころ)。沖山社長は悪役中の悪役安部徹。今考えると実に贅沢なキャストだし、ギャラもバカ高くなっただろうな、という思いが鑑賞中ずっと頭の中を駆け巡っていた。

 

HDDにはこのシリーズの作品がまだいくつか残されているはずなので、細かい理屈抜きにフォーマットを楽しみたい気分の時に鑑賞してみたいと思う。