脳内お花畑を実現するために

サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

実際にその土地に行って自分の身体を使わないと感じられないことは確かにある 『戦国の古戦場を歩く』読後感

 

 

井沢元彦氏監修による、戦国時代の有名合戦地のガイド本。

 

織田信長今川義元を討ち取ったことで一気に戦国の雄にのし上がった「桶狭間の戦い」、武田家が織田軍の最新戦法、鉄砲の三段打ちで壊滅状態に陥った「長篠の戦い」、逆に武田軍が徳川軍を散々に打ち破って、家康が恐怖のあまり逃げながら脱糞したと伝えられる「三方ケ原の戦い」、そして戦国最大の「関ヶ原の戦い」などのメジャーな合戦場から、かなりマイナーな小さな戦いの場に至るまでを紹介している。合戦に至る背景の解説、実際の合戦の内容とともに、現在のアクセス方法までを綴っている便利な一冊である。

 

特に現在のアクセス方法を詳細に記してある点について、監修者である井沢氏は、「武将が馬に乗って駆け抜けたであろう街道などは車で移動しても良いが、実際の合戦の場に関しては是非とも自分の両脚で歩くことで往時の人々の感覚に近いものを味わってもらいたいから」としている。

 

そうそう、この「往時の人々の感覚に近いものを味わう」というのはなかなか難しい。「××軍は○○城の西方約5kmのところにある小高い丘に陣を張り、そこから一気に城下に攻め込んだ」などという記述はサラリと読めてしまうが、実際は鎧兜を被り、重たい銃や槍、刀を持ち5kmもの距離を走った後に敵とようやく激突することになるのだ。道も現在のように整備されてないし、途中に川があればそれも渡らなきゃならないし、深い泥田があればそこに足を取られて身動きもままならない、なんて状態もあったはず。そして、飛び交う大量の矢玉。そこをかいくぐっても、目の前に現れるのは文字通り殺意に満ち満ちて槍やら刀やらを携えた敵兵である。

 

いやはや。私なんぞは、敵の陣地に行く前に息切れしてしまっていざ戦いの場になったら全く役に立たずに、さっさと殺されてしまったことだろう。その他、野戦になればその時の厳しい自然状況に関わらず、地べたの上に直接寝っ転がって休息をとるしかない。最近の良い芝生の上でやるラグビーなんざ、それこそ貴族の蹴鞠みたいなもんだ。芝生のグラウンドが一般的でなかった我々の高校、大学時代の泥まみれの試合ですら、文字通り児戯に等しい

 

そんな状況にも関わらず、戦って、しかも勝ち続けて天下を取る。おそらく私は合戦場を一巡りしただけで到底自分にはなしえなかったとため息をつくしかないだろう。私にできることは、ほんの名も無い雑兵ですら、それだけの苦労の上にようやく斬ったとか突かれたとかの戦いに臨んだことに関して畏敬の念を抱くことだけだ。

 

秀吉が力攻めを嫌い、調略や糧道断ちで相手の降伏を辛抱強く待つという戦略をとったことにも合点がいく。んな疲れて、しかも命の危険があることに誰が喜び勇んで出かけるかっつーの。

 

まあ、おそらくアップダウンのきついであろう古戦場を歩いただけで、私は今の世に生まれた幸せをつくづくと感じてしまうだろう。戦国の戦いなんぞはゲームの上だけで「楽しんで」おけば良いものなのだ。何か古戦場から物語を拾ってこようとする目論みでもない限りは。

 

手軽なガイド本としては具体的な上に、適度に読み応えのあった一冊であったとはいえると思う。