アメリカの深刻な社会問題の一つである薬物依存を扱った一作。向精神薬として認可は受けているものの、麻薬に似た作用による依存症と、副反応によりさまざまな障害を引き起こすオピオイドという成分を含む薬品をめぐるサスペンス。
物語には3人の「主人公」が登場し、それぞれの立場でこの薬物と戦う姿が描かれる。
まず物語を引っ張るのが、カナダの薬物密輸組織に潜入している麻薬捜査官ジェイク(アーミー・ハマー)。最初に彼の姿が描かれることで、この作品はクライムサスペンスなのかと勘違いしてしまうのだが、そういう要素は強いものの、あくまでも敵は密売組織ではなく「薬物」そのものである。なお、この作品は日本ではビデオスルーであったが、劇場で公開されなかったのは米での作品公開時にアーミー・ハマーに性的なスキャンダル騒動が持ち上がっていたため。
お次は女性建築家クレア(エヴァンジェリン・リリー)。彼女の息子は、ある日突然行方不明となり、発見された時は明らかに薬物中毒と見られる症状を呈した上で亡くなっていた。息子に薬物を渡した人物とその背後にある組織への復讐を誓うクレア。自身にも薬物依存の経験があるという設定になっているクレアは「母は強し」を地でいく執念でクスリの流通ルートを調べ上げ、復讐の機会を虎視眈々と狙う。物語の終盤で、ジェイクとクレア二人のストーリーは一つの結末に集約していくという演出になっている。
最後は大学の薬学を専攻とする教授、ブラウアー(ゲイリー・オールドマン)。彼は製薬会社から莫大な資金援助(彼の研究のみならず、所属する大学の経営にも大きく影響する金額)を受けて、依存性の小さい鎮痛剤の研究を行なっている。しかし、研究が終盤に差し掛かり、製品化もほぼ決まりかけた時期に、実験から新薬にも深刻な薬害があることを示すデータが提示されてしまったから、さあ大変。投資回収とその後の莫大な利益のため、製薬会社はその不都合なデータを無効であると主張して、なんとか発売にこぎつけようとする。学者としての矜持と何より薬害により苦しむ人をなくそうと奮闘するブラウアーだが、お金の力は凄まじく、過去のスキャンダルを蒸し返されて社会的信用を失わされた上、大学からも追われることとなってしまう。
個人的には、このブラウアーの戦いをもっと大きく取り上げてもらいたかった気がする。薬品の開発という「川上」と流通先という「川下」両方の現場の問題を描こうとする心意気はよかったのだが、手を広げすぎてテーマがボケてしまった気がする。タイトルにもした通り、どんな制度にも必ず抜け道があり、末端の密売組織などは、その辺の加減を実に巧みに見極めて「商売」している。その巧みさを描くというのも一つの目的としては悪くはないとは思うが、根本の根本のところで、利潤追求のために、制度の根幹を揺るがしかねない巨大な不正が堂々と行われていることこそが問題だ、というところにフォーカスした方がサスペンスとしての緊張感も高まったのではないかという気がする。川下で正義感を持った捜査官がいかに奮闘しても、「合法的」に大々的に生産が行われていたのでは、まさしく、シャベル一本で大河の流れを止めようとするようなもので、いつまで経っても病根は断ち切れない。
最後の最後、ブラウアーは別の大学の薬学の教授として、学生からも研究者からも大きな期待を寄せられ、新たな戦いに挑むという未来が暗示されて終わるのだが、新しい大学で薬害の最大の原因であると判明した「企業の論理」といかに戦うかの方まで描いて欲しかった。まあ、もしそんな描き方をしたら、映画の制作会社も配給会社も、それこそ未来永劫製薬会社をスポンサーにすることができなくなるという「企業の論理」が働いた上での展開だったのかもしれないが(笑)。