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サラリーマン兼業ライター江良与一 プロブロガーへの道

オリックスバファローズの2021シーズンリーグ優勝は偶然でも奇跡でもなく必然の結果だった 「オリックスはなぜ優勝できたのか〜苦闘と変革の25年〜』読後感

 

2021年シーズンは両リーグともに一昨年の最下位チームが優勝するという「奇妙な」結果となった。シーズン前は、マスコミはこぞってパはソフトバンク、セは巨人の連覇を予想し、巨人がソフトバンクとのシリーズ連敗をいつ止められるかが話題の中心となっていたくらいだ。

 

両球団共に躍進の原因はいくつもあるのだが、ヤクルトの方は、ここ10年どちらかといえば上位にいることが多く、一昨年の最下位は「巡り合わせ悪かった」とでもいうべき事象だった感が強かったが、オリックスの方はさにあらず。

 

投手陣は山本由伸以外は柱がない状態。打線については首位打者を獲得した吉田正尚が孤軍奮闘している状態。何よりシーズン途中で監督が替わるようなチームの成績が上昇するわけはない。しかもオリックスの場合、シーズン途中から監督代行を勤めた人間が翌シーズンも続けて指揮を取ることが多かったのだが、その翌年も概して成績は良くなかった。一昨年シーズンの途中から指揮を執った中島監督が2021シーズンも指揮を継続するのが既定路線と伝えられた時は、マスコミはここぞとばかり「代行→正式監督就任という流れは今までの成績不振の流れをそのまま続けることだ」という論調で、オリックスのチーム運営に疑問を呈した。まあ、今までの実績が実績だったから仕方がない部分はある。

 

日本人の大物FA選手を獲得しても、MLBで実績のある外国人選手を引っ張ってきても、前評判通り働いた選手はほとんどいない。やることなすこと全て失敗し続けた結果が、12球団最長の25年間リーグ優勝なしというものだった。

 

2021年シーズンも開幕当初は低空飛行で「あ、やっぱりダメか…」という空気が流れつつあったが、交流戦で優勝したことで一気にチームに勢いがついた。投手は山本由伸の他に2年目の宮城が年間通してローテーションを守り、抑えには平野がどっしりと腰を据えた。打線は吉田が2年連続首位打者に輝き、吉田の大学での2年先輩の「ラオウ」杉本が30歳にして突然の覚醒。31本塁打を放って本塁打王に輝いた。本塁打王経験者のT-岡田も渋い活躍を見せたし、宗や紅林といった若手が台頭し、堂々のレギュラーを張った。ヤクルトと同じ言い方をしてしまえば「巡り合わせが全て良かった」ということになるかもしれないが、ではこの巡り合わせは偶然だったのだろうか?

 

実はこの優勝は偶然の巡り合わせでもなく、奇跡でもなく、やるべきことをしっかりやり切った結果であったことが述べられたのが本書である。「やるべきこと」とは一体何で、誰がどのような点を改革して「やり切る」に至ったかについては是非とも本文をご一読いただきたい。したり顔で言わせて貰えば、「ビジネスの現場でもすぐに応用ができる」方法がいくつも描かれている。

 

一つだけ紹介するとすれば、若手の育成方法の改革だろう。チームとして目指す姿を、数年ごとに区切って考え、その理想の姿を実現するにはどんな選手をドラフトで獲得すべきかを明確に持つ。そして獲得した選手についてはその選手の長所をいかに伸ばすかに心を砕く。また、もし計画通りに育成が進まない場合は、何が問題だったのかをきちんと検証しておく。

 

なんだ、そんなこと「普通の仕事」なら当たり前の話じゃねーか、と思われるかもしれないが、ソフトバンク楽天でチーム編成に携わった加藤康幸氏が2014年にスカウト部門を統括する職に就くまでは、どの選手のどの部分に魅力を感じて獲得に至ったのか、またその後の育成はどのような方針で進められて成功したのか、失敗したのか、そうしたデータの蓄積が一切なかったというのだ。プロ野球選手に限ったことではないが、期待した選手が期待した通りに働かないことは少なからずある。怪我もあれば、いわゆる「水が合わない」などというメンタル的な要素でスポイルされることもある。もちろんドラフト4位で入団した山本投手や、同10位で入団した杉本選手などの「大化け」もあるが、これはある意味宝くじに当たったようなもの。失敗事例のデータ量を蓄積しておいて、そこから学ぶことで「当たり」の確率を少しでも高めていくことが地道なチーム強化につながる。

 

加藤氏は2020年の東京五輪(実際に開催されたのは2021年だが)の主力になるような選手をオリックスから輩出したいという大きなビジョンのもとに、2020年に24〜28くらいの年齢層で、侍ジャパンの主軸を張れる選手をドラフトで獲得し育成していくことを目指したそうだ。吉田選手などはその典型で、2年連続首位打者獲得という絶頂期に五輪を迎え、大活躍して金メダル獲得に貢献した。

 

さて、今回の優勝は必然と言って良い出来事ではあったのだが、一年で終わってしまっては「巡り合わせ」の問題にされてしまうのが世の常。「勝つことは難しくないが、勝ち続けることは難しい」という言葉もある。21年シーズン活躍した宮城、杉本両選手が「2年目のジンクス」に見舞われる可能性は少なからずあるし、シーズン終盤に怪我をした吉田選手が無理していないかも気になる。山本投手だって他球団が皆研究してくるだろう。21年シーズンに活躍した選手がそのままの成績を維持し、かつ打者投手ともに新戦力が何人か台頭してきて、ようやく強さを「維持する」ことができるのだ。前述した加藤氏はすでにオリックスには在籍していない。プロ野球球団という組織の特性上、ある時一斉にスタッフが変わってしまうことがある。その時にいかに過去の失敗とそこから得た教訓を引き継いでいけるか。オリックスが常勝球団となれるか否かはまさにその一点にかかっていると言って良い。

 

私が窓口となっている取引先にはオリックス「さん」の関連会社があり、その商談時の最初の話題としてバファローズに触れると、和やかに進む。同じお話をするならいい成績を誉める方がいい空気が醸成される。巨人が強いと、比較的商談がうまくいくとか、関西地区なら阪神が強いと会話が円滑に進むなどということが言われるが、私にとってはバファローズの成績はある意味「死活問題」だ(笑)。第1次長嶋政権の際に巨人の前に立ち塞がった強い阪急ブレーブスと、ついに球団消滅まで日本一になれなかった近鉄バファローズの両方のDNAを受け継ぐこの球団は私にとってもある種の思い入れのある球団であることは事実。叩かれ続ける球団でなく、強くあり続ける球団であってほしいと思う。